87年『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』と、それに伴う大掛かりで外連味たっぷりの『グラス・スパイダー・ツアー』は、迷走期のボウイを象徴するものとしてあげられる。僕もその評価だけを耳にしていたので長い間、避けて通っていた。
しかし、デヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』の、大きなスクリーンに囲まれた展示室で、僕は初めて87年『グラス・スパイダー』のヴィデオに収録された「バン・バン」の映像を、巨大スクリーンと素晴らしい音響で観ることができた。そして、惚れ直してしまったのだ。
両脇に屈強そうなダンサーを引き連れるボウイ。すると彼は突然、ステージを降りダイヴするかのように観客へ手を伸ばす。当然ガードは彼を止めるのだが、ボウイの手を掴みにステージへ駆け寄ろうとして失敗した一人の女性(あからさまな仕込みだが)が現れる。
どうやら怪我をしたようだ。そのお詫びであるかのように、スタッフはステージに彼女を上げ、ボウイと踊るよう促す。おじおじしながら近寄る彼女。それに気づいたボウイがステージ上で、彼女に手を伸ばしたのだ。歓声をあげて、彼女は腰が砕けてしまう。
恥ずかしがって帰ろうとする彼女を、ボウイが止める。「こっちにおいで」とボウイに、その女性はついに駆け寄り、彼と抱き合ったのだ! 歓声が上がるとともに僕の目にも涙が浮かぶ、感動的なシーンだ。
そして流れは変わる。ボウイが露骨に彼女のお尻を撫でると、彼女はボウイを突き放すのだ。実に正しい反応であろう。ボウイは打ち捨てられたのだ。
しかし彼女は、キリリとして次はなんと「ボウイへ」手を伸ばし、彼を立ち上がらせるのだ。そして観客であった彼女と一心同体になったかのような、美しい踊りを披露する。
ボウイの素晴らしさは、このような観客との相互コミュニケーションにあると思う。それは、自分が大スターだと意識した上で、「僕は君のために歌っている」と思わせる、いなせで少しずるいけれど納得してしまうあり方だ。
それは『ジギー・スターダスト』収録の「ロックンロールの自殺者」から変わらないスタンスだと思う。「あなたはひとりではないんだよ、僕の手を取って!」と歌う彼こそ、僕がボウイに感じる魅力の本質だ。それは87年においても変わらないものだった。
そして展覧会では「ロックンロールの自殺者」の1973年、ジギーを葬った伝説のライブバージョンも、続けて観ることができる。この二本の映像を続けて観られたことは実にニクい、素晴らしい体験だったのだ。
2017.04.07
YouTube / churrascopictures
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