沢田研二の「ストリッパー」はロンドンレコーディング
1981年に沢田研二さんのアルバム『ストリッパー』のレコーディングが行われたEDEN STUDIOSは、ストレイ・キャッツ、ロックパイル、エルヴィス・コステロが使っていた、イギリスのパブロックやネオ・ロカビリーのメッカとも言える場所だった。
沢田研二さんのサウンドプロデュースをやらせていただけるだけでも幸せ者なのに、当時ニック・ロウやコステロに夢中になっていた僕にとって、まさに「ロックな事件が現場で起っている」場所でレコーディングできるなんて、本当に夢のような出来事だったのである。
しかもエンジニアが、ストレイ・キャッツの『涙のラナウェイ・ボーイ(Stray Cats)』やロックパイルの名盤『ロンドンの街角(Seconds Of Pleasure)』を手がけたアルド・ボッカ。今まで聴いたことのない、とにかくきっぱりと立ち上がりのいい音で、日本でエキゾティクスとリハをやりながら思い描いていた音をはるかに超える、本物のサウンドに驚かされた。
初めての海外レコーディングで、英語もちゃんとは話せない僕だったけれど、体当たりなブロークンイングリッシュでもアルドと意思の疎通がとれたことは大きな自信になったね。
アルドとの仕事はそれで終わりかと思っていたら、なんとその後、再び彼と仕事をすることになろうとは。
「過激なUKサウンドでやりたい」アン・ルイス直々のプロデュース依頼
「ストリッパー」がリリースされるや、そのサウンドを聴いたアンちゃん(アン・ルイス)が、直々に、
「私も「ストリッパー」みたいな過激なUKサウンドでやりたいよ」
… と僕にプロデュースをお願いしてきたのである。それで作ったのが「ラ・セゾン」。こちらもジュリーに負けず劣らず、当時の歌謡シーンを震撼させた過激なUKサウンド。そしてさらに、
「次のアルバムのレコーディングは、アルドを日本に呼んでやりたい」
… と言い出したんだ。それがアルバム『ROMANTIC VIOLENCE』。
目指したのはダンサブルなブリティッシュ・インヴェイジョン風味のサウンド
当時英米を席巻していたデュラン・デュランなどのダンサブルなブリティッシュ・インヴェイジョン風味のサウンドを目指したのだが、そのアルバムに収めるつもりで制作してたのが「六本木心中」だった。
僕がアンちゃんに描いていたアーティスト像は、革ジャンに汗かきなロッカーではなく、ゴージャスでカラフルでポップなイメージ。NOBODYのデモテープを聴いたとき、少し男臭く革ジャンな印象があったので、どうしたもんかと考え込んでしまった。
そこで思いついたのがジョルジオ・モロダーの『フラッシュダンス』のような、打ち込みのキラキラ・シンセのアルペジオとハードなロックギターの融合による一種のロックオペラ的サウンド。その瞬間、あのイントロの「♪ ターラーリラー…」というメロとアルペジオが浮かんできた。
だけどそのままでは序章という感じで歌には突入できない。それで続けて「♪ ジャッジャージャー、チャラリチャラチャラ…」というイントロ2を加えた。そのまま歌に入ってもいいのだけど、ここまできたらもう思いっきりもったいつけてしまえ!と、本編での疾走前にさらにギアを入れなおす意味でもう一つ、イントロ3を!!
ロングセールスのヒット曲「六本木心中」
何かが乗り移ったように没頭して気がついたらあのイントロができていた。なんと40秒以上の長いイントロ!! 最初からシングル曲とわかってたらこんなに長いイントロにはしなかった。ところがこの曲の仕上がりを聴いたディレクターが「おお、これはいい。売れるよ」と、アルバムには入れずに次のシングルに、となった。
彼の思惑とは裏腹に、当初は全く火がつかなかった「六本木心中」だったが、まるで演歌の曲みたいにじわじわ売れてきて、結局ロングセールスのヒット曲となった。
どうも当時流行っていたエアロビでよく使われたらしい。テンポがちょうどそれ向きだったとか。ははは、世の中わかんないね。
後に相川七瀬さんが「六本木心中」をカバーしてくれた時に、プロデューサーの織田哲郎君がこの僕の苦心のイントロをそのまま使ってくれてたのはうれしかった。歌のメロディと同じくらいこのイントロが「六本木心中」なんだと思ってくれてたのかもね。
※2019年10月29日に掲載された記事をアップデート
2021.06.05