80’s Idols Remind Me Of… Vol.23
堀ちえみ / とまどいの週末かたくなに守られていた、アイドル堀ちえみの “処女性”
■ 潮風の少女 - 潮騒にたわむれながら抱きしめられるのを夢見る15歳
■ 真夏の少女 - 恋を育てるふたり、デートをただ夢見る、まだ15歳
■ まちぼうけ - 時間を間違えて結局デートは実現しない、あわてんぼな15歳
… これは1982年3月から8月にかけてリリースされた、堀ちえみのデビューシングルから3枚目のシングルまでの、それぞれおおまかな内容だ。
80年代女性アイドル大隆盛のメインストリームの一角を担った堀ちえみではあったが、アイドルソングのニューミュージック化(シティポップ化)への目配せには配慮しつつも、隠喩表現としてのセクシャリティの肯定化を、特に初期作品においては一切無視していたことがわかる。深読みレベルの “80年代的な匂わせ” がまぶされていたりもする。
なかでも「潮風の少女」における「♪ 少し早い茅ケ崎」にはドキッとした。サザンオールスターズ「茅ケ崎に背を向けて」(1978年)以降に散見された “茅ヶ崎ワード” なのか…。うーん… あくまでも深読みなんだろうな…(でもやっぱり狙っているとしか思えないが)。すべてのアイドルソングの根幹にある “処女性のキープ” だけは、かたくなに守られていたというのが、これら堀ちえみの最初の3枚のシングルだったわけだ。
大事件勃発! 4枚目のシングル「とまどいの週末」
そして事件が勃発した。4枚目のシングル「とまどいの週末」が1982年11月5日にリリースされ… 全国の堀ちえみファンの度肝を抜いた、15歳の女の子を襲う “貞操の危機” が赤裸々に描かれていたのだから!これはもう事件も事件、大事件だったのだ。
ようやくデートにこぎつけた若いふたり… 日も変わろうとするミッドナイト、青くもぎこちない男女の駆け引きを描いていたのが「とまどいの週末」である。
♪ だって、こわい
♪ ちょっと、はやい
♪ 突然抱きしめられて
♪ しばられて、きっとここから動けない
随所にまぶされたこれら “貞操の危機” ワード。そして…
♪ 危険な胸さわぎ
♪ ねえ、どうしよう!
♪ なぜいじめるの!
といった、一見拒否を示しているようで実は危機を受容する絶妙な言い回しで呼応…。特にあの容姿の15歳の堀ちえみに、様々な特殊な意味合いを含んだ “いじめる” という言葉を言わせたのには、昇天する以前に膝を打ったものだ。声を張り上げたときの不安定な可愛いらしさ、秀逸なサビ始まり等含め、堀ちえみ史上屈指の名曲といったところか。
82年組の一軍入りを盤石にした決定打!
とにもかくにも「とまどいの週末」は、全国数十万人の堀ちえみファンを悶絶死の域に導いた。これはもう新境地を拓いたとかそんなレベルではなく、大事件勃発だったとしか言いようがない。同時に次の5枚目のシングルへの注目度が一気に上がっていったことも確かで、花の82年組の一軍入りを盤石にした決定打だったともいえよう。
「とまどいの週末」は堀ちえみ史上初めて10万超えのセールスを記録、オリコンシングルランキングも初のトップ20入り(14位)を果たした。目論見通りに勃発させた事件は、大成功を収めたわけだ。そして16歳を迎えようとする時期にリリースされた5枚目のシングル「さよならの物語」で、新たな事件が勃発することになろうとは誰が予想しただろう。
※ KARL南澤の連載「80's Idols Remind Me Of…」
80年代の幕開けとともに、新たなアイドルシーンが増幅・形成されていった。文字通り偶像(アイドル)を追い求めた80年代を、女性アイドルと、そのヒットソングで紐解く大好評連載。
■ 80年代の吉永小百合、南野陽子が放っていた崇高かつ孤高のオーラ
■ 1980年にデビューした浜田朱里、山口百恵の引退と大いなる時代の変化
■ ポスト堀ちえみ? 清純派路線の正統派、島田奈美は試練の86年組
etc…
2020.08.26