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歌謡界に殴り込みをかけたロックギタリスト=小田裕一郎に捧げるレクイエム

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2018年9月17日、作編曲家として80年代を中心に活躍された小田裕一郎氏がニュージャージー州の自宅で亡くなった。心筋梗塞だった。

サーカスの「アメリカン・フィーリング」で注目を浴びた氏だが、明らかにそれまでの歌謡曲とは違う、その洋楽的なメロディーと爽やかなアレンジは子供ながらに「これは日本の曲?」と思ったものだ。

70年代半ばからの「西海岸ブーム」は日本の歌から湿度を取り払い、80年代に入ると詞もメロディーもカラリとライトなポップスであふれるのだが、その先鞭をつけた作曲家の一人が小田裕一郎その人だった。

氏の代表作と言えるヒット曲を振り返ってみる。

■1979年
アメリカン・フィーリンング / サーカス
クリスタルモーニング / 石川優子


■1980年
裸足の季節 / 松田聖子
青い珊瑚礁 / 松田聖子
風は秋色 / 松田聖子


■1981年
恋=Do! / 田原俊彦
グッドラックLOVE / 田原俊彦
ニートな午後3時 / 松原みき


■1982年
ゆ・れ・て湘南 / 石川秀美

■1983年
CAT’S EYE / 杏里

■1984年
スリリング / 田中久美

■1987年
ジレンマ / 中村由真

などなど、それまでの歌謡曲とは違い、ほとんど洋楽に近いメロディーでこの国の若者の音楽センスを大いに上げてくれた。なにより極めつきは82年のローズマリー・バトラー「汚れた英雄(Riding High)」だろう。

大藪春彦原作・草刈正雄主演のその映画も最高に思い出深い作品の一つだが、その主題歌が洋モノではなく、純日本人作曲家が作った和モノであることをご存じだっただろうか?

実は私もこれが氏の作品であることは10年ほど前に知って驚いたのだ。そんな氏も90年代には NY に拠点を移し米国で活動し続けていたので日本ではあまり名前を聞く事もなくなっていた。

ところが、私はここ数年で2度も小田裕一郎氏とお会いしている。友人の友人が氏の奥様だという妙なご縁で、日本に帰国された際、ライブやお食事(というより酒!)のご相伴にあずかったというわけだ。ほとんどメディアには出られない方だったので、初めてお会いする時は「どんな方だろう…」と非常に緊張したのだが、その出で立ちは、カウボーイハットにファーのストール、革のロングコートと、凡人とは違う近づきがたいオーラ。明かに NY 帰りの一流ミュージシャンである。

私の経営する歌謡曲バーにもわざわざギター持参でお越し頂き、即興で「青い珊瑚礁」ロックバージョンを熱唱して店内は拍手喝采。ジョージ・ベンソンが盟友と語る現役ミュージシャンですからね。それは、それはすごかったですよ。もったいぶらないその大らかさ。近づきがたい豪快な風貌に反して、人好きで少年のようにピュア。何より音楽が大好きな方だった。

「有名になりたいとかそんな事は思わなかったね。音楽しかできないからそれで食っていくためにやってた。でも当たっちゃったんだよね。時代が俺にマッチしたんだろうね」

ヒットメーカーと呼ばれた当時を振り返っても答えはいたってライト。それもまた80年代らしい感じで嬉しくなる。

氏から直接聞いた「80年代音楽シーン裏話」は過激で過酷でちょっとここでは書けないが、楽しそうに昔話をする氏の姿に80年代が本当にエキサイティングな時代だったんだという事を教えてもらった。

氏はスタジオミュージシャン・作編曲家としての活躍がメインだったが、本人名義でアルバムも残している。是非、ファーストアルバム『O=D=A』(84年)に収録されている「Tsumetai Bed」を聴いてみてほしい。

そう、田原俊彦「エル・オー・ヴィ・愛・N・G」、歌詞違いの原曲… 浮気な彼氏を一人泣きながら待っている女を好きになってしまった男のエレジーを歌い上げるボーカル、そしてブルージーなギターといい、トシちゃんとは全く違う大人の魅力にあふれている。

青年のように熱く、センスも生き様もとことんカッコイイ。そんな氏ともう会えないと思うと、悲しくて仕方ない。平成も終わるし… もうそういう時代だ。

昭和の音楽シーンを彩った才能が一人また一人と星になっていく―― 残された我々の宿命は、その作品を聴き継ぎ、歌い継ぎ、その人柄を語り継いで行く事。そんな思いを新たにする氏の急逝だった。

小田裕一郎さん、安らかに。

そして、我々の青春を彩ってくれた素敵な音楽をありがとうございました。

2018.10.27
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