「グローリィ・デイズ」は、ブルース・スプリングスティーンの大ヒットアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』からの5枚目のシングルレコードだ。発売されたときには、アルバムリリースから約1年が経過していたが、それでも全米5位を記録し、トップ40に3ヶ月間も居座るロングセラーとなった。
溌剌とした歌と演奏が魅力的な曲で、今でもファンの間では人気が高い。印象的なシンセサイザーのリフ、シンプルなドラムパターン、遊び感覚で挿入されるマンドリン、エンディングで繰り返されるかけ声など、ちょっとしたパーティーソングでもある。
プロモーションビデオは、ブルースとEストリート・バンドがバーで演奏しているシーンを中心に構成されており、その楽しげな様子は、この曲が持つ気安さや軽妙さをよく表している。
とはいえ、歌詞に目を向けてみれば、楽しいことを歌った曲ではないと、すぐにわかるだろう。ブルースは、人が心に抱える不安や、直面する現実の厳しさを、自虐めいたジョークに変えてみせるのがうまい。この曲もそんな歌のひとつだ。
主人公の男は、年齢にして30過ぎといったところだろうか。歌には彼の高校時代の友人がふたり登場する。ひとりは野球の名プレーヤーだった男友達で、もうひとりは男子学生の憧れの的だった女友達だ。
主人公は彼らと再会し、一緒にお酒を飲む。しかし、彼や彼女の口から出て来るのは昔の話ばかり。自慢の豪速球で次々とバッターから三振を奪った日々。学校の人気者だった若かりし頃のこと。それは彼らにとってのグローリィ・デイズ(栄光の日々)というわけだ。
栄光の日々
そんな時間は過ぎ去っていく
栄光の日々
少女がウインクをするほんの一瞬の間に
栄光の日々 栄光の日々
女友達は離婚して2年ほどがたつ。彼女は言う。「つらいことがあると、昔のことを思い出して笑うの」と。
そんな彼らとの会話に、主人公はやるせなさを感じている。正直、彼らのようにはなりたくない。昔のことばかり考えて過ごすなんてしたくない。でも、きっと自分もそうなるのだろう。それが歳をとることなのだと、彼も薄々感づいている。
椅子に深く腰をかけて
華やかだった時代を
少しばかり取り戻してみようとする
でも そんな日々はもうとっくに過ぎ去っていて
自分は置いてけぼり
後に残ったのは
過去の栄光の退屈な話だけ
過去の栄光はもう戻らないし、今は今でしかない。人によっては厳しい現実だ。
しかし、ブルースのライヴでは、この曲が大合唱になる。それもみんな笑顔で歌っている。心の奥にある真実を吐き出すことで、気持ちが軽くなり、現実に立ち向かう勇気がわいてくるのだろう。一種の浄化作用と言えるかもしれない。それもまたロックンロールの本質だ。ブルースはそれを誰よりもうまくやってのける。
今でも野球場へ行くと、よく「グローリィ・デイズ」が聞こえてくる。
僕は想像する。もし主人公の友人がプロ野球選手になれていたとしたら… ほとんどの場合、選手が才能を輝かすことができる期間は短い。だからこそ、この瞬間にかける姿が胸を打つのだ。そして、僕らもまたそれをわかっているから、陽気に盛り上がり、歌を唄って、彼らのプレーに喝采を送るのだ。
ちょっぴり自虐的に。今が過去になる前に。
グローリィ・デイズが、少しでも長く続くことを願って。
2018.05.31
YouTube / Bruce Springsteen
Information