80年代に入った当初、英米の音楽シーンの傾向をあらわす一つの大きなキーワードが、「リメイク」だった。
僕もこの当時この言葉を、レコーディングスタジオなどの音楽の現場でよく耳にし、そして僕自身もよく使うことが多かった。これまでこれはきっと和製英語にちがいないとずっと思いこんでいて、でも念のためにと調べてみたら、なんとちゃんとした英語だったことがわかって遅ればせの驚き!!
「リ」は「再び」を表す接頭辞 re で、「メイク」の前につくと「作り直す」みたいな意味になる。これは主に映画の世界で使われることが多い言葉で、例えば、1933年に制作され大当たりした映画『キングコング』が1976年に、そして1968年に世界的に大ヒットした『猿の惑星』が2000年代に入ってティム・バートン監督の手によって再び映画化された現象などを表す時によく使われる。
その「リメイク」が音楽シーンに登場するのが80年代。ビリー・ジョエルやフィル・コリンズなど多くのアーティストたちが、こぞって60年代の楽曲を叩き台とした新曲やカバー作品を次々と発表し、80年代の音楽シーンに怒涛のような60年代ポップロックの「リメイク」の波が押し寄せることになったのだ。
70年代は、60年代にビートルズあたりから始まったポップロックのビッグ・バーンが限りなく拡大していったディケード。
やがて70年代末には、「AOR」と呼ばれる「大人のためのロック」が誕生するに至って成熟を遂げたかに見えたが、その分、ロックの初期衝動が失われた感は否めなかった。その物足りなさの隙間に登場したのが、パンクロックやニューウェイブ。
落ち着きの AOR とは真反対の、ストレートでシンプルな方向に思いっきり舵をとった、フレッシュでやんちゃな音楽。60年代リメイクの大きなきっかけはこの驚きの現象から、堰を切ったように始まったと言っても過言ではない。
こういう現象に対して、「ついにロックも煮詰まったのさ」とネガティヴなことを言う人もいたけれど、僕はそうは思わなかった。
それは単なるリバイバルではなくて、例えばポリスの「見つめていたい(Every Breath You Take)」やトンプソン・ツインズの「ホールド・ミー・ナウ」のように、あのべン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」でおなじみの、60年代に一世を風靡したポップス王道の C-Am-F-G的なコード展開を再び表に打ち出してはいても、そのビート感やノリは、明らかに70年代後半に生まれてきたテクノミュージックのようなタテノリで、音楽だけじゃなくいろんなジャンルでデジタル化が始まってくる80年代にぴったりとフィットするものだったのだと思う。
何かを捨て何かを足すことによって、80年代の多くのミュージシャンたちはティーンの頃に大好きで影響を受けたビートルズやモータウンサウンドなど、かつての自分のアイドルとも言っていいアーティストたちへのオマージュを楽しみながら、再びシンプルな初期衝動に立ち返り、新しい時代にマッチしたスタイルの音楽を作り始めたのであった。
う~ん、まさかこんな時代がまたやってくるなんて思いもよらなかったよ。まさか10代の頃に多大なる影響を受けた60年代の音楽のようなイズムとスタイルで、めぐりめぐって今度は僕がオリジナル曲を作ってやってってもいい時代がくるなんて!!
こんなチャンスはこの機会を逃すと一生のうちに2度とこないかもしれないぞ。79年12月31日にすっぱりと髪を切り、まっしぐらに80年代と向かい合っていた僕は、なんのためらいもなく、自分の青春のビートポップのリメイクに取りかかっていくことに決めたのである。それにはきっと沢田研二さんや佐野元春君との出会いも拍車をかけてくれたにちがいない。
1982年にリリースされた僕の『BABY BLUE』から始まる、『SUGAR BOY BLUES』、『STARDUST SYMPHONY』のアルバム3部作の中に溢れかえっている、生き生きとしたポップな躍動感は、そんな僕の喜びから生まれてきたものだったのだ。
※編集部より
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3月9日(土)
ビルボードライブ東京Guest:杉真理 / 曽我部恵一 / 伊藤俊吾
1st Stage 16:30〜
2nd Stage 19:30〜
Member
伊藤銀次(vo,g)
上原ユカリ裕(ds)
六川正彦(b,cho)
細井豊(key,cho)
田中拡邦(g,cho)
2019.02.24