“初めて行ったロックのライブは何?” と問われたら、高校1年のときに実家の秋田で見た甲斐バンドと答える。鮮明に記憶に残っているのは、初体験の高揚のみが理由ではない。甲斐よしひろに叱られたからだ。
ニューミュージックの全盛期、東北は、とりわけ日本海側は “ロック不毛の地” 的な言われ方をしていて、ロック系アーティストが全国ツアーの際に素通りするのが当たり前だった。そんな中、甲斐バンドが秋田に来るのは一大事。
ライブ盤「100万$ナイト」「流民の唱」は何度も聴いたし、あの熱気を生で体感したいという10代特有の直情的な盛り上がりも手伝い、友人に頼んでチケットをゲット。簡単に3列目が取れた時点で、今なら売れ行きが想像つくところだが、なにしろ初体験だけに良席がとれて大喜びするしかなかった。
当日ホールに到着に到着して待つも、後ろの席が空いていることに気づく。開演時間が迫っても埋まった席は半分ちょっと。心配はしたがライブが始まってしまえば、もう前しか見ない。大いに楽しんだつもりだった……
が、アンコールに応えて出てきた甲斐よしひろは “おまえら、もっと楽しめよ” とたしなめるように語り、他にどの曲をやるのかワクワクしていたこちらの期待を裏切るかのように、本編でプレイした当時のシングル曲「Blue Letter」2度目の演奏。
盛り上がりが足りなかったのなあと反省しつつ、東北が “ロック不毛の地” と呼ばれるワケを身を持って知った。その後甲斐バンドは1986年の(最初の)解散ツアーまで秋田を素通りし続けた。
後に、自分は上京したので秋田の状況は知らないが、バンドブーム期にロックに触れた妹は地元でラフィン・ノーズ等のライブに行ったというから、不毛の地にも芽が出て膨らんだのだろう。今年、甲斐バンドは82年当時の最新アルバム [虜-TORIKO-] を含むBOXセットをリリースする…… そんなニュースを聴き、不毛の時代を思い出し、なんだか切なくなった。
2016.05.31
Blue Letter / 甲斐バンド
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