ロックシーンのグローバル化が進み、BABYMETAL、ONE OK ROCK をはじめ、日本のアーティストが海外のロックフェスに出演するニュースを頻繁に聞くようになった。
そのたびに、僕は先駆者として82年夏にイギリスのレディング・フェスティヴァル出演を果たしたバウワウ(BOW WOW)のことを思い出す。
80年代前半のバウワウといえば、イギリスで勃発した NWOBHM(ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・へヴィ・メタル)の波に呼応し、ヘヴィメタルに回帰。一時期の不遇なポップ路線から抜け出し、ラウドネスのデビューと共に日本のメタルシーンの礎を築いた頃だ。そんな中でへヴィメタルの聖地へ果敢に向かい、レディング出演を実現させたのだった。
出演時の映像は、あの深夜番組『11PM』で放映され、僕もそこで観たのを記憶している。レコード会社の販促用でも使われていたが、30年以上の時を経てその映像が Youtube にアップされたことを山本恭司自らのツイ-トで知ることになる。
まさか再び観られる日がくるとは夢にも思わなかった。
3日間に渡るフェスの2日目。錚々たるラインナップの中、この日のトリはアイアン・メイデンだった。約14分間の映像はタイムコードが入った生々しいもので、ミニドキュメントといった様相だ。
バウワウの出演時刻は正午でオープニングアクト扱いだった。照明すら点かないステージを眺める観客は無反応でアウェイの雰囲気が漂う中、彼らは新作「ワーニング・フロム・スターダスト」からの「ユア・マイン」を物凄い勢いで演奏し始める。
映像からでも迸るエナジーは半端ではない。「俺たちが日本のメタルを背負ってやる!」といわんばかりの気迫がひしひしと伝わってくる。山本恭司はこのライヴのことを「記憶が飛んだ」ほどに高揚していたと後述している。
ステージから彼らが放出するパワーによって、次第に観客が引き込まれていく様子が見て取れる。ラストでは恭司が歌舞伎の獅子舞を被ったパフォーマンスで盛り上げ、彼らの挑戦は怒涛のまま終了した。
引き上げるメンバーを待っていたのは、オープニングアクトではあり得ないアンコールを求める歓声だった。彼らは実力だけでそれをもぎ取ったのだ。
時間を超えた演奏は許されず、観客を納めるために恭司だけがステージに戻り再度のお礼を述べる。そして、5万人の観客と最後のコール・アンド・レスポンスを行うシーンは胸を打ち、実に感動的だ。
それから5年後、今度は VOW WOW として再度レディング出演を果たし、ボトル投げの洗礼を浴びながらも熱演。見事にイギリスでの地位を確立することになる。
日本のへヴィメタルが初めて海外で認められた瞬間を克明に記録したこの映像の持つ意味は大きい。海外への道標のない時代にメタルの聖地への熱い思いを貫き、それを実現したバウワウと彼らを支えた関係者には改めて敬服するばかりだ。
彼らは真の先駆者だ。
だからこそ、海外進出やフェスに出演を果たすバンドが増えるたびに、これから先もバウワウが成し得た偉業の価値は高まり続けるだろう。
※2017年6月19日に掲載された記事をアップデート
2019.08.28
YouTube / agegky2011
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