パンクロックを好きになると自分にもできると思ってしまうから困ったもので、もちろん僕もその手の一人だ。友達を集めてバンドを組み、自分たちの演奏を録音したカセットテープをライブハウスに持って行って売り込みをしていた。幾つかのライブハウスに定期的に出演させてもらえるようになると、時々嬉しいブッキングをしてもらえることがあった。
その嬉しいブッキングのひとつがヒートウェイヴとのライブだ。山口洋率いるヒートウェイヴは福岡のスリーピースバンドで、僕にしてみればめんたいロックの国からやってくる黒船のようなバンドだった。ヒートウェイブの曲を一曲も聴いたことがないのに、いよいよ自分たちもこんな人たちと同じステージにあがれるようになったのかと、ちょっと自惚れも入ったりして。
でもライブ当日はリハーサルから打ちのめされっ放し。すごい迫力、すごい音圧。これが格の違いってやつか〜とビビりながらも、本番前、狭い楽屋に一緒にいると自然と世間話が始まった。同年代ならではのたわいもない話ばかりだったけど、グッと親近感を感じた和やかなひとときだった。
本番はヒートウェイヴの出番が先だったので、僕はステージ袖で彼らの演奏を見ていた。彼らの次に自分たちが出るのが嫌になるぐらい無骨でかっこいい。袖で見ているのがもったいなくなって、途中から客席に行って見てたもんね。
演奏が終わり、激励しようと楽屋に行くと、ん?なに?この雰囲気? どこか不穏な感じ。声をかけづらい。アンコールの拍手が聞こえる中、ステージを降りてきたドラムに向かってボーカルの山口洋が「腕が折れるまで8ビートを叩いてこい!」と一喝。ものすごい剣幕だ。何があったの? と声もかけられず直立不動。あんまり怖いのでもう僕が怒られてる気分。さっきまでの楽屋での和やかさは欠片もない。この場をどうすればいいのだろうかなんて余計な心配をしているとベースが笑いながら「いつものことだよ」とこっそり教えてくれた。
その後の成り行きを気にしながらも自分たちの出番に向かった。その日のステージは山口洋の一喝のおかげか、緊張感のある演奏ができたなと思いつつ、同時にヒートウェイブには近づかないように気をつけて楽屋に戻ると、さっきの険悪な雰囲気は何処へやら。「いやーよかったよ、またこっちに来た時は一緒にやろう」とにこやかに全員と握手。なんなんだよ〜この3人組は!
そのライブの後に発売されたアルバム「凡骨の歌」の一曲目「魂の裏庭から」を聴くといつもこの時のことが蘇ってくる。
♪食う寝る出す 出す飲む 吸う抱く泣く これらに何も事欠かないが
食う寝る遊ぶ そんな男に僕はなりたくない
あんた、絶対ならないよ。
2016.09.10
魂の裏庭から / ヒートウェイヴ
YouTube / Jun-ichi Kyogoku
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