ロックンロールをこの歳になるまで聴き続けて、よかったと思えることがあるとすれば、それは本来なら知り合うことのなかった人と仲良くできたりすることだと思う。それは今も昔も変わらない。
秋田で過ごした高校時代の自分は成績も真ん中よりちょっと上から下を行ったり来たりして、校則はほどほどに守り、良いことも悪いこともしない、ごく普通の目立たない学生だったと思う。通っていた高校も平均的な県立校で、良い子も悪い子もいたが、後者とはあまり接点がなかった。
高校3年に進級したとき、クラスに上の学年から落第した、いわゆる “ダブリ” の生徒が同じクラスに入ってきた。そのMさん、ガタイもよくて、見るからにワルと言う感じで、あまり関わりたくないなあと思っていた。
最初の世界史の授業の際、教室に行くと、2人がけの机は、そのMさんの隣の席しか空いていなかった。恐る恐る、最後方のその席に座る。ところがMさんはロックンロールの大ファンだった。周囲で人気があるのはオフコースやアルフィーなどのニューミュージックの残党で、こんな人と出会う機会はそうそうない。話のきっかけは、一部の悪い子たちに人気があった、めんたいロックの話。ロッカーズやモッズ、ARB らの話をしたが、とりわけ盛り上がったのは、ルースターズの話だ。
ルースターズの最初の二枚のアルバムは、今では大好きだが、当時は典型的なワルという感じで、それほどなじめなかった。しかし、高校一年の冬にリリースされた12インチシングル「ニュールンベルグでささやいて」を聴いて、すげー! と思った。カオスが猛スピードで転がっていくようなスゴさ。こんなロックンロールは聴いたことがなかった。
ジャケットを見ると、ボーカルの大江慎也が蝶ネクタイをして笑顔を見せている。ワルのイメージがあったので、これには少々驚いた。『音楽専科』誌のインタビューを読むと、大江がココロの病気を患っていることがわかってきた。そして翌年のアルバム『DIS.』は明らかに何かがおかしかった。それまで歌詞の一人称だった「オレ」は「ボク」に代わり、「オマエ」は「キミ」に。詞も内面の闇を見つめたものが増えている。そして、それはそれでとてつもないスゴみを感じさせた。
… てな話を夢中になってすると、Mさんは「大江、やべえよなあ」と軽く笑った。以後、世界史の先生には申し訳ないことをしたのだが、この授業の時間はロックンロールの話ばかりすることになった。
思い返せば、セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!!』を初めて全部通して聴いたのは、Mさんから借りたとき。お返しに自分も PiL の12インチシングルを貸した。そして3年目の高校生活が終わる頃、Mさんはピストルズの輸入盤写真集を貸してくれた。「これ、シドのチ●ポが写ってるんだよ」と、笑いながら。
卒業後、高校時代の殆どのクラスメイトと疎遠になり、Mさんとの関りも途切れた。ピストルズの写真集も借りたままで、30数年が過ぎた。もし会えるなら返したい。というか、会えるなら会いたい。今もロックンロールを聴いているんだろうか?
2019年4月13日(土)、
リマインダーとスポットライトの共催イベント『博多ビートパレード』でレコードを回させていただく。一緒にやるのは、クラブイベント『不良少年の夜』の主宰でルースターズとも縁の深い伊勢田勇人さんや、リマインダーでもおなじみの本田隆さん。おふたりとも一年ほど前から親しくさせていただいているが、やはり縁はロックンロールだった。たくさんの出会いの機会をあたえてくれた音楽に感謝しつつ、やろうと思う。そこでまた新しい出会いがあるように。
2019.03.23