初めてのルースターズは音楽番組で目にしたMV「SAD SONG」
ルースターズを初めて聴いたのはたぶん1984年の冬。夜中のテレビで流れていた彼らの通算9目のシングル「SAD SONG」のMVだった。毎日のように観ていたテレビ神奈川(現tvk)の邦楽MV紹介帯番組『ミュージックトマトJAPAN』からマイケル富岡の流麗な英語による曲紹介が聞こえてきて、試験勉強をしていた私は画面をチラ見したまま釘付けになった。
バックライトに浮かび上がる黒い木々のシルエット。幽玄の世界で無表情にがなるボーカル。目に光はない。
どんよりとした冬の曇天とティーンエイジャーの孤独に「SAD SONG」はマッチしたのかもしれない。
『ミュートマジャパン』はこの曲をなぜか執拗にオンエアし続け、いつか私は覚えて口ずさむようになった。
初めて聴いたアルバムは4thアルバム『DIS.』(1983.10.21発売)、その次は5thアルバム『Good Dreams』(1984.4.21発売)だ。
ボーカルの名前は大江慎也と知った。
だから自分にとってルースターズと言えば、初期ルースターズよりこの頃のニューウェイヴ期のルースターズが圧倒的に刷り込まれている。大江が精神に変調をきたした後のルースターズが私のルースターズなんである。
あの娘のおもかげが
とめどなくあふれだし
うすぐもった胸を
真白に 塗りつぶす
水しぶきが岸を越え
君の顔にふりかかるころ
僕はふるえる霧靄をしずめ
この胸ははりさける
Sad song あの娘の声がひびきわたる
Sad song あの娘の唄がきこえてくる
やさしい風がふきぬけて
閉ざした心をひらいてゆく
遡って知ったルースターズの音楽性
その後遡ってファーストアルバム『THE ROOSTERS』(1980.11.25発売)、続く『THE ROOSTERS a-GoGo』(1981.6.25発売)を聴いた時には驚愕した。こんなストレートでオーセンティックなイカしたロックンロールをビリビリ鳴らすバンドだったとは! しかもファーストのジャケット写真なんて、完全に北九州のチンピラ風情である(褒めてます)。
追って、1982年の石井聰亙監督映画『爆裂都市 BURST CITY』も鑑賞。うおおおおお仁義なき近未来パンクアクション! フライング風戸役で俳優デビューした大江慎也は相当イキったロッカーだった。「SAD SONG」を歌う顔とは天地ほどにも違う。
なぜだ。音楽の方向性を変えるのは全然ありだと思う。確かにエコー&ザ・バニーメンやU2など、当時の洋楽シーンからの影響の強さを感じるし。だけど、あの虚ろな目はプロモーション戦略にもスカしているようにも見えない。だって初期のライブ映像はまるで別人だ。ギラギラと目を剥き、自信満々で傲慢で、向かうところ敵なしに見える大江。がなる声は同じでもぶっきらぼうなシャウトに不敵な笑みを浮かべる大江。不思議だ。いったい何があったのか。彼はどんな闇を見て闇に飲まれたのか。
大江慎也が体調を崩した原因は?
大江慎也が不安定な精神状態に陥ったのは、Wikipediaによると1982年頃らしい。名盤12インチ「ニュールンベルグでささやいて」(1982.11.21発売)を録音後、ジャケット撮影をしたスタジオの壁に頭を打ちつけるといった奇行が目立つようになり、精神科を受診して入院。音楽活動は休止となった。
1983月6月頃から復帰後は、大江の指向によりバンドサウンドのオルタネイティブ色が濃くなり、歌詞もどんどん陰鬱化に拍車がかかった。方向性の違いによるメンバーの脱退と新規参加も相次ぐ。また、決して体調が快方に向かったとも言い切れず、ライブではマイクの前で歌い出さず突っ立ったままになったこともあったという。そして1985年、大江は再度入院し、そのまま脱退。その後は花田裕之がリードボーカルをとり、1988年にルースターズは解散する。
大江が体調を崩した理由は、プロデューサーからの搾取や酷使、恋人との別離、バンド躍進による目まぐるしい環境の変化等々諸説あるが、今も謎のままだ。
その体にふれたとたん
たじろいで身をかたくする
永遠に凍りついた白い肉体が
さめた火をともす
真夜中にたたきおこされ
目の前がまぶしく光る
ベットのまわりは すき間なく
とりまいた冷酷な顔が
Sad song あの娘の声がひびきわたる
Sad song あの娘の唄がきこえてくる
やさしい風がふきぬけて
閉ざした心をひらいてゆく
バージョンも豊かで、3番の歌詞もある「Sad Song」
YouTubeに1985年2月14日、高知でのライブ動画が上げられている。大江慎也脱退1ヶ月ほど前の貴重な映像だ。ここで「SAD SONG」を観るにつけ、私は泣けてしまって仕方がない。イアン・マッカロクのような髪型と白いシャツでマイクの前に立つガリガリの大江は明らかに挙動不審で能面のような表情をしている。なかなか前を見ない。頭と体は始終少し揺れており、時折両手を大きく振ってみせる。それはなんだかイアン・カーティスを彷彿とさせて、どうにも胸が張り裂けそうになる。ルースターズというバンドの成り立ち、変化、大江に対するバンドメンバーの思いを詰め込んだステージのように見えて万感胸に迫るのだ。
サブスク音源未解禁の日本ロックバンドの雄、ザ・ルースターズ。なのにカラオケにはなぜか何曲も入っている。もちろん「SAD SONG」もある。しばらく歌ってなくて忘れちゃったけど、あれはシングルバージョンだったはず。しかしアルバム『DIS.』バージョンで歌ってしまう時がある。3番の歌詞も好きなのだ。私の十八番だ。緊急事態宣言も解除となったし、また1人カラオケでも行こう。大江のボーカルのマネをしながら久々に頭を真っ白にして叫んでみたい。
しおれ切った雲が突然に泣き始め
涙がほほを流れ落ちる
泣き声がひびきわたる
カーテンを引き降ろせ
悪天候がつきまとい
まるで混乱の渦の中
回る車輪のうちに
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2021.10.31