1月1日

角川3人娘の次女・渡辺典子のデビューシングル「花の色」は小野小町を本歌取り?

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渡辺典子のデビューシングル「花の色 / 少年ケニヤ」がリリースされた日
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薬師丸ひろ子の休業、角川三人娘の明暗


1982年4月、約5万7千人の応募者を集めて開催された「角川映画大型新人コンテスト」で見事グランプリを受賞したのが、角川三人娘の次女と呼ばれる渡辺典子だった。

当時は『セーラー服と機関銃』の大ヒットにより、角川の看板女優である薬師丸ひろ子の人気は絶大だった。その彼女が大学進学で1年間の休業を発表したため、次のスターを選ぶコンテストは世間の注目を集め、渡辺典子の存在は日本中に知れ渡る。しかし、典子よりも先に看板女優として頭角を現したのは、コンテストで角川春樹氏がゴリ押しした弱冠14歳の原田知世であった。



同年7月、知世がTVドラマ版『セーラー服と機関銃』で主役を演じ、その主題歌で歌手デビューも果たす一方、典子がヒロインを演じた『伊賀忍法帖』の公開は同年12月まで遅れ、しかも話題は同時上映の『汚れた英雄』に集中する。翌年も主な活躍といえば、角川ではない映画『積木くずし』で主演したくらい。それも、スキャンダルで降板した高部知子の代役である。

当時の私は角川三人娘の動向をチェックしていたが、正統派美人の典子が不良少女役でスクリーンに登場し、下着姿も連発すると知った時は度肝を抜かれた。折しも世間は、角川映画『探偵物語』と『時をかける少女』で、ひろ子と知世が人気を二分。その明暗に複雑な思いがしたものだ。

渡辺典子満を持したデビュー曲は両A面


原田知世の予想外の人気で渡辺典子の存在が霞んだことに、角川氏は負い目を感じていたに違いない。「1984年は渡辺典子の年にする」と宣言し、彼女の応援団を結成して自ら団長に就任、次は典子の番と意気込んだ。

そんな角川氏の宣言通り、渡辺典子は1984年の元旦に、自ら主演したTVドラマ『探偵物語』の主題歌で歌手デビューを果たす。デビューシングルのタイトルは「花の色 / 少年ケニヤ」。デビュー曲は両A面シングルだった。

楽曲の制作陣は、「花の色」の作詞が三浦徳子、作曲は財津和夫。一方の「少年ケニヤ」は、作詞が阿木燿子、作曲は宇崎竜童。百恵や聖子の楽曲でヒットを連発した作家を贅沢に使っている。それくらい典子のデビューには力と金を入れ、満を持していたのだ。

「少年ケニヤ」は、同名の角川アニメ映画の主題歌で、トリッキーなメロディーとエスニックなアレンジが印象的な曲。CMでガンガン流れた「口移しにメルヘン下さい〜」のサビを覚えている方も多いはず。ただ今回は、実質的なデビュー曲として扱われた「花の色」にスポットを当て、歌詞を深読みしてみたい。

小野小町の和歌を ”本歌取り” した「花の色」


松田聖子の「チェリーブラッサム」や「夏の扉」など、三浦徳子と財津和夫の楽曲には明るい印象がある。しかし、「花の色」に明るさやキラキラ感はない。哀愁漂うマイナー調のメロディーに載せ、恋の不安とはかなさが、典子の達観したような声で歌われる。

特徴的なのは、和歌をモチーフにしていること。「花の色は うつりにけりな いたずらに わが身世にふる ながめせしまに」という百人一首にも入っている小野小町の歌から3句を借用し、現代の歌詞に置き換えている。和歌でいう ”本歌取り” の技巧を凝らした曲なのだ。

この文学的な歌詞とメランコリックなメロディーは、知的で清楚な渡辺典子のイメージとマッチした。私もすぐに虜になり、繰り返し聴きまくった。良い曲だったので、待ち望んだ甲斐があったと思ったーー。

しかし歌詞を深読みすれば、彼女の境遇と心情が透けて見えることに後年気づいた。小野小町の本歌で「花の色」とは、女性の容姿の隠喩。花の色があせていく様子を、年月が経って衰えてゆく自分の容姿に例えている。そして「いたずらに」は「無駄に」という意味。つまり、無駄に年月を過ごすうちに私の盛りが過ぎてしまったと、曲の出だしで典子は歌っているのだ。

角川映画主演の順番が回ってこないまま歌手デビューも遅れ、10代が過ぎていった典子の心境が比喩として読み取れるのは、私だけだろうか。

「リタルダンド」、「空色のピアス」は、歌声が洗練された佳曲


そんな(いたずらな)深読みはともかく、渡辺典子の「花の色 / 少年ケニヤ」はオリコンで最高9位、約23万枚を売り上げる。原田知世のデビュー曲「悲しいくらいほんとの話」の数万枚に比べると、立派な成績だ。映画のタイアップ効果もあったはずだが、「花の色」の作品性が評価されたのと、歌手デビューを待ち望んでいたファンが多かったことも要因だと思う。



そして「1984年は渡辺典子の年にする」という角川氏の宣言通り、この年の典子は角川映画『晴れ、ときどき殺人』に主演、念願の主題歌も歌う。ようやくここに来て、他の2人と肩を並べたのだ。主題歌「晴れ、ときどき殺人(キル・ミー)」も約15万枚と連続ヒット。歌番組にも出演し、歌手としても存在感を示す。



しかし、角川氏の宣言は残念ながら、ある意味、言葉通りにもなった。10月に映画『いつか誰かが殺される』に主演して主題歌を歌った後は、翌85年の『結婚案内ミステリー』を最後に主演がとだえ、歌手としても低迷する。

そんな典子は、80年代後半に他の2人と同じく角川事務所から独立、レコード会社も移籍して再起を図った。1987年に発売したシングル「リタルダンド」と「空色のピアス」は、歌声が洗練され、大人のシンガーとしての風格を感じる佳曲。こうしたシックな曲が典子には似合うので、もっと歌手として評価されてほしかった。

今も彼女は女優を続けているが、もし他の2人のように主演映画がヒットしていたら歌手も継続し、その歌声が評価されたのではないかと思わずにいられない。

参考文献
角川映画 1976-1986 / 中川右介(角川文庫 2016年)

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2023.01.13
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カタリベ
1966年生まれ
松林建
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