女優はずっと続けていきたいと思っているけど、まだ何をやるってハッキリ決めたくない。25歳ぐらいまでは映画の役でも他の仕事でも何でもやってみて自分に合ったものを見つけたい(「積木くずし」パンフレットより)。
「晴れときどき殺人(キルミー)」で『ザ・トップテン』(NTV)に登場した彼女は、司会の堺正章さんから「どういう女優さんになりたい?」と聞かれると、即座に陽暉楼(ようきろう)に登場するような女性たちを演じてみたいと答えてみせた。映画「陽暉楼」(五社英雄監督)は、昭和初期、土佐の花柳界で生きる女衒の父・勝造と芸妓となった娘・桃若との愛憎を中心に、勝造の愛人や楼閣の女将、芸妓たちとの人間模様を描いた文芸大作である。
この作品を目標にあげるということは、この時すでに女優としてのプロ意識が彼女の心に深く根付いていたという証拠。そういった職業に対する真面目さ、想いの強さは、他の十代のアイドルたちからはほとんど感じることはなかった。だから、あの当時のコアなファンは、アイドルを見るのではなく、彼女を女優として意識しなければならないと感じていたはずだ。
映画「積木くずし」で演じた非行少女と母親との格闘シーンは、まるで「陽暉楼」で池上季実子と浅野温子が演じた芸妓同士の壮絶な喧嘩シーンに迫るものがあった。そうして彼女が自己主張し、求めてやまなかった本格女優への第一歩を目撃してしまったがために、私は彼女を薬師丸ひろ子や原田知世と同じ目線で観ることができなくなった。それを少し残念に思ってしまったのは、自分と同じ世界にいると思っていた同い年の女の子が、知らぬ間に大人の世界に深く足を踏み込んでいることに気付いたからである。
ところで、渡辺典子を語る上で忘れてはいけないことがひとつ。それは歌手としての顔だ。角川三人娘はそれぞれにヒット曲を持っているが、彼女の個性は薬師丸ひろ子や原田知世のものとは少しばかり異なる。
◆少年ケニヤ(映画「少年ケニヤ」主題歌)
◆カムイの剣(映画「カムイの剣」主題歌)
◆ここちε(ワコール「ここちε」CMソング)
◆火の鳥(映画「火の鳥 鳳凰編」主題歌)
◆涙で答えて(東鳩「ハーベスト」CMソング)
◆仕返しロングシュート(映画『恐怖のヤッちゃん」挿入歌)
◆空色のピアス(NHK「アニメ三銃士』イメージソング)
◆サラダ記念日(俵万智の短歌集の楽曲化)
楽曲のほとんどが主題歌やイメージソング。特筆すべきは、自身の主演映画以外の主題歌も歌っている点であるだろう。CMやドラマなどを含めると結構な数になる。彼女は、作品のイメージを壊さず作品に寄り添って歌い演じることが出来る稀有な劇伴シンガーだったのだ。どんな色にでも染まってみせる。役を演じるように歌ってみせる。その根底にあるのは勿論、渡辺典子の女優としての資質に他ならない。ここでもまた彼女の役者根性に火が付くのである。
少年ケニヤ / 渡辺典子
作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童
発売日:1984年(昭和59年)1月1日
カムイの剣 / 渡辺典子
作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童
発売日:1985年(昭和60年)1月21日
火の鳥 / 渡辺典子
作詞:阿久悠 作曲:宮下富実夫
発売日:1986年(昭和61年)11月1日
2016.11.19
YouTube / Boogie maechu
YouTube / yahari
YouTube / butako1974
Information