ビル・ウィザースの名曲「リーン・オン・ミー」は、友愛と助け合いの歌だ。ウィザースが故郷であるウエストヴァージニアの炭鉱町から、大都会である LA に引越した際、隣人同士の繋がりが希薄であると感じたことが、この曲を書くきっかけになったという。
ゴスペル調のゆったりとした美しいメロディーと、助け合いの精神を綴ったシンプルな歌詞は、多くの人の胸を打ち、1972年春に全米1位の大ヒットを記録した。
それから15年後の1987年春、「リーン・オン・ミー」は、クラブ・ヌーヴォーというソウルコーラスグループがカヴァーしたことで、再び全米1位に輝いている。
打ち込みによるビートと、ヒップポップの要素を取り入れたアレンジがほどこされてはいたが、原曲のスピリチュアルな雰囲気は損なわれていない。むしろ、メンバーがヴォーカルを分け合うことで、助け合いの精神がより明確に伝わってくるようになった。歌詞の内容を簡単に紹介しよう。
生きていれば、つらいときはあるし、悲しいことだってある。でも、明日は必ずやってくる。だから、困ったときは、頼ってくれよ。ただ声をかけてくれればいいから。誰だって助けは必要なのだから。
今、世界は様々な脅威にさらされている。無差別テロ、凶悪な犯罪、自然災害、原発事故など、これまで胸が痛くなるような出来事がたくさんあった。そのたびに、ラジオから「リーン・オン・ミー」が流れてきた。人々が声を合わせて歌っている映像も目にした。
つらいとき、この曲を口ずさむことで、心が救われた人達もきっとたくさんいることだろう。
「リーン・オン・ミー」は、手を差し伸べる側からの歌だ。力になりたいし、そのための準備もできている。でも、いざやろうとすると、なかなか難しい。どこまで踏み込んでいいのかわからず、躊躇してしまうからだ。助け合うためには、双方が心を開いて、お互いを信頼する必要がある。
そこで「リーン・オン・ミー」では、“call me” という言葉が何度も歌われる。助けが必要なときは遠慮せずに呼んでほしいと歌っているわけだが、ここがこの曲のポイントかもしれない。
僕が一番好きなフレーズは、曲の最後の方に出てくる。
もし君の背負う荷物が重すぎて
ひとりでは支えきれないなら
僕は君が進む道にいよう
もし君が声をかけてくれたら
荷物を運ぶのを手伝うよ
「君の進む道にいよう」というところがいい。つまり、勝手に君の荷物に触れたりはしないよと言っているのだ。手を差し伸べる前に、まず相手を尊重している。その上で、相手と同じ目線で、“If you just call me(もし君が声をかけてくれたら)” と、自分の気持ちを伝えているのだ。
日々の暮らしの中で、自分は相手を十分に尊重できているだろうか?
結局、正義はひとつじゃないし、真実は無数にある。僕の喜びがあなたの喜びとは限らない。でも、もし力になれることがあれば言ってほしい。そして、いつか僕が困ったときは、どうか助けてほしい。
2018.07.08
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