1960年代から70年代初頭のモータウン全盛期、次々にリリースされるヒット曲の屋台骨を支えた伝説のハウスバンド「ファンク・ブラザーズ」。その中心人物であったベーシスト、ジェームス・ジェマーソンは、1983年8月2日、47歳の若さでこの世を去った。
シュープリームス、テンプテーションズ、フォー・トップス、ジャクソン5、マーサ&ザ・ヴァンデラス、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー… 数々のアーティストがモータウンからヒットを放ち、スターへと登りつめていったその陰には、24時間稼働のスタジオに入り浸り、曲を練り上げるミュージシャンたちの姿があった。
ドキュメンタリー映画『永遠のモータウン』に出てくるスタッフの証言にもこんな一節が――
「3時間で4曲作った。少なくとも2曲以上だ。いつも同じメンバーだから出来たんだ。違うのはコードやリズムだけ。スタジオが家みたいなものさ。まずたいてい、ジェームスが音を出す。そこへほかの皆が続いた」
中には、歌い手が決まっておらず、オケだけ先に完成させるという流れもあったそうだ。つまりは、そのオケさえあれば、誰が歌ってもヒットするという確信があったということだ。こうしてヒット曲の “量産” が可能となった。
その原動力となったのは、モータウンレーベルの創始者:ベリー・ゴーディー・ジュニアとファンク・ブラザーズの共通の “祈り”。
1930年〜40年代、ダンスホールで人々を高揚させ躍らせたビッグバンドジャズ。その流れを汲んだジャンプブルース。黒人スラングによる風刺のきいた笑いを盛り込んだ “ジャイヴトーク” といわれる MC で観客を沸かせ、コール&レスポンスで歌い手、楽団、オーディエンスが一体となって盛り上がるエンターテインメントの形を作り上げた先駆者たち。芸術と芸能の境い目がなく、ジャズがダンスミュージックだった頃の憧憬…。
こうした偉大なる先駆者、キャブ・キャロウェイやルイ・ジョーダン等は、公民権法が敷かれるとっくの前から、その実力で米国チャートを賑わすスターとなり、聴衆に愛されていたのだ。
だが、時代はめぐり、その功績は白人に取って代わられる。キング・オブ・ロックンロールと称されるエルヴィス・プレスリーが台頭。英国からはビートルズがやって来る。そんな中、モータウンは、自分らの手で世界を踊らせ熱狂させるヒット曲をどうしても作りたかった。
そこでベリー・ゴーディーが目をつけたのは、トランジスタラジオだった。多少電波が悪く廉価なラジオでも、圧倒的なインパクトを残せるサウンドであれば、大衆を惹きつけることができる。
なんせモータウンには強力なバンドがついている。ファンク・ブラザーズのメンバーの大半は元々ジャズミュージシャンであり、セッションで慣らした即興で、如何ようにもビートアレンジができる。そして、グルーヴマスター、ジェームス・ジェマーソンがいる。勝算の要は、そのビートを最大限に印象づけることだった。
モータウンビートと呼ばれる典型的なふたつのリズムがある。ひとつは「ダンダンダツダツ」という四つ打ちのビート(フォー・トップス「リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア」や、スティーヴィー・ワンダー「アップタイト」など)。
もうひとつは「ダッダッダー ダッダッダダー」という3連符の跳ねたビート(シュープリームス「恋はあせらず(You Can't Hurry Love)」や、テンプテーションズ「オール・アイ・ニード」など)。
ベリー・ゴーディーがこのビートの疾走感を強調するために思いついたのは、リズムのスネアの部分にタンバリンをかぶせること。魔法のタンバリンだ。他にも、鉄琴やハンドクラップ、硬質なタムの音やパーカッションを起用してグルーヴを際立たせ、誰もがモータウンだとわかる無二のサウンドを作り上げていったのだった。
その後の音楽シーンにも多大な影響を与えたモータウンの楽曲。最後に、ジェームス・ジェマーソンを偲んで、跳ねる方のモータウンビートが踏襲された80年代ポップス、超私的ベストテンを発表!
■第10位
季節が君だけを変える / BOØWY
■第9位
スイート・インスピレーション / シーナ&ザ・ロケッツ
■第8位
Oneway Generation / 本田美奈子
■第7位
お先に失礼 / おニャン子クラブ
■第6位
恋は、ご多忙申し上げます / 原由子
■第5位
あの娘にアタック(Tell Her About It)/ ビリー・ジョエル
■第4位
SINGLE / 山下久美子
■第3位
バイバイ・ハンディ・ラブ / 佐野元春
■第2位
ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ(Wake Me Up Before You Go-Go)/ ワム!
■第1位
ハートをRock / 松田聖子
「ハートをRock」の作曲者:甲斐よしひろが高校時代に初めて組んだバンド名=「ノーマン・ホイットフィールド」。もうこれは、きっとモータウンのお導きです!
2018.08.02
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