「おい、おい、おい! ちょっと、ちょっと、ちょっと!!」
後方から私を呼び止める聞きなれた声。小学校2年生から同じクラスのアタルくんだ。今日から私たちは中学3年に進級し、またしても同じクラスだった。
「お前、ボウイって知ってるかーっ!?!?」
彼はもともと声が大きいが、今日は特に大きい。彼からサザン以外のアーティストの名前が出るなんて珍しい。この春休みに何かあったのか?
「俺さー、わがままジュリエットってゆー曲を聴いたんだけどさー、これがまたいいんだよ!! そしたらさーほかの曲もさー聴きたくなっちゃってさーー、ほかの曲もすんげーかっこいいのな!」
すんごい息巻いてる。よっぽど感動したらしい。
1986年の2月にリリースされた「わがままジュリエット」は、BOØWY初のビデオクリップが制作され、ちょうど地上波での露出が増えたのもこの頃だった。
数日後の昼休み、幼稚園から一緒の美香ちゃんが、
「BOØWYの恒松さんのベースってカッコイイよねー!」
と言いながら立ち上がり、わがままジュリエットを口ずさみながら弾き真似をし始めた。長い付き合いだが、ボーイッシュなスポーツ少女の彼女から、それまで音楽の話を聞いたことがなかった。そんな彼女でさえBOØWYに惹かれてしまうなんてビックリだ。
またある日のこと。
塾に行くと、1学年上の元サッカー部の先輩が遊びに来ていた。相も変らぬ爽やかな笑顔。以前と変わったところがあるとすれば、高校の制服のせいか少し大人びた印象を受けた。
「ボウイって聴く? わがままジュリエットって聴いた??」
センパイ、開口一番がBOØWYかいな。
そもそも私はBOØWYに興味が無かった。
髪型、メイク、衣装すべてがダメ。硬派っていう人もいたけれど、私には不良にしか見えないし、彼らの踊りとも言えない “動き” も苦手だった。この話題にも飽き飽きしていたが、周囲にはどんどんファンが増えていき、その場は話を合わせてしまう方がラクだった。
時は流れ、高校1年の秋。都内の男子校に通う彼氏ができた。彼は4人編成のバンドのギターを担当していて、オリジナルの曲に加え、BOØWYの曲などもライブで披露していた。ライブハウスではそこそこの集客があり、頻繁にスカウトを受ける程、アマチュアのバンドとしては完成度が高かった。
ちょうど付き合い始めて1年が経つ頃、渋谷でライブがあった。ライブの前に、
「5曲目ちゃんと聴いていてね。俺から1年目の記念に贈る曲だから。」
ドキドキしながらその瞬間を待つ。
贈られた曲は「わがままジュリエット」だった。
付き合い始めの頃、またしても唐突に “どの曲が好きか?” と訊かれたときに、唯一、タイトルとメロディーが一致するこの曲を伝えたんだっけ。相手の気持ちを考えると、とても申し訳ない気持ちになった。
驚きと、照れくささと、喜びの感情が入り混じり、体感が変わるのが分かった。メロディーと歌詞が初めて心に響き、この曲を “素敵だな” って感じている自分がそこにいた。遅れ馳せながら、これがBOØWYワールドに陥落した瞬間だった。
その後、BOØWYの曲を自ら進んで持ち歩き、周囲の感性に同調できるようになったことは言うまでもない。
2017.05.06
YouTube / jun craft
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