僕はジャンルを問わず何でも聴くのですが、逆に苦手なのは何かと考えると――
恐ろしく分かりやすい歌詞(気恥ずかしい)、どっかにありそうなメロディ(既にあるものならいらないのでは?)、あまりにもファンが多いアーティスト(同じ趣味の人がそんなにいなくてもいい)あたりかと。
何か決めているわけではないんですが、どれかに当てはまると、アンテナに引っかからないようです。
ところで本サイト Re:minder でも取りあげられている尾崎豊の歌といえば、詩が無骨でストレート、音はシンプルなロック。その組み合わせがあまりに自然で80年代の高校生以上なら誰でも聴いていました。
それで高校中退が増えたとか、校舎の窓ガラスが軒並み割られたとか、そんなことはありませんでしたが、学歴社会の息苦しさに対して「自由になりたくないかい」と語りかけ(Scrambling Rock'n' Roll)、支配からの「卒業」を歌う尾崎さんに多くの人が共感を覚えたのは確かです。
同じ頃、僕は筋肉少女帯を選んでいました。当時は大槻さんが客席に語りかけて応答を楽しむという、小さい会場ならではのMCスタイルだったのですが、猫も杓子もラフィンノーズの時代に「げっと、げっと、げっとざぐろ〜りー」と連呼していました。
けなすのでも妬むのでもなく、ちょっと拗ねた子供が憎まれ口を叩くような斜に構えた感じです。そういえばメジャーデビューアルバムの『仏陀L』のジャケットも YMO のパロディのようですし。
そんな悪意のない、ちゃかすような姿勢がストレートに歌詞にでたのが「モーレツア太郎」でした。
モーレツア太郎
啓蒙してくれよ
狂えばカリスマか!?(脱いだら天才か)*
吠えれば天才か!?(ゲロ吐きゃ天才か)
死んだら神様か!?(狂えば仏か)
何もしなけりゃ生き仏か!?
*ライブでは時々、( )内のように歌詞を変えて歌うことがありました。
そんなロックで
子供が踊るよ
モーレツア太郎
ひとつものを教えてあげて下さい
当時聴いた人なら、間違いなく尾崎さんを思い浮かべたことでしょう。
この頃、尾崎さんは「教祖様」への重圧から一時停滞していました。高校、学歴といった制度への反抗から離れてしまえば、もう歌うテーマがなくなったなんて噂も流れていました。
そんな口さがない噂を裏付ける歌詞にも読めてしまうのですが、当時の筋少のスタイルを知っている人なら、尾崎さんに対する皮肉とは受け取らなかったでしょうし、「そんなロックで」踊り狂うファンの方をちゃかしているのです(もちろん筋少で踊るファンも含めて…)。
その数年後に、尾崎さんは亡くなります。葬儀には数万人が参列し、尾崎さんが全裸で座り込んでいた庭は巡礼地になりました。そういえば、忌野清志郎が亡くなった時にも葬儀は大盛況でカリスマブームがおきました。
それにしても音楽の趣味とは難しいものです。「モーレツア太郎」で尾崎さんを想いだすと、僕は必ず「卒業」を取り出して美しいピアノのメロディとその晴々とした歌い方に耳を傾け思わず一緒に口ずさんでしまうのです。
歌詞引用:
モーレツア太郎 / 筋肉少女帯
※2016年6月22日に掲載された記事をアップデート
2018.06.21
YouTube / SilentFace007
YouTube / Magnata
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