リマインダーのコラムをお読みになっている方であれば、“森雪之丞” という作詞家はもちろんご存じだと思う。アイドルや歌謡曲、ロックやニューミュージック、そしてアニメソングまで幅広いジャンルに作品を提供している。最近では氷川きよしが歌う、アニメ『ドラゴンボール超(スーパー)』のオープニングテーマ「限界突破×サバイバー」の作詞も手掛けている。
さて、1月14日はその森雪之丞の誕生日である。そんなおめでたい日を記念して、私ごときが語るのもなんだが、森雪之丞のたくさんの作品の中から、独断で10曲を選んでみた。私の好みが思いっきり入ったセレクションになってしまったが、「あ~! これもそうだったのか!」とか、「こんな曲知らなかった!」とか、いろいろと思っていただけたらとても嬉しい。
第10位:春霞恋絵巻 / 石川秀美
タイトルからして「やりたい放題か!」と思うほど遊んでいるとしか思えない、けど当時の秀美にはピッタリだった。ロックテイストの曲なのに「金襴緞子」「たわけ者め」「元禄ボーイ」「ONAGO」など、和テイストな言葉のチョイスが面白い。この頃の秀美は挑発的な曲が多く、この曲でも「次の彼氏とイチャつく キスで仇討ち」といった刺激的なフレーズが出てくる。
第9位:宝石 / 山下久美子
1994年、カルピスのCMソングに起用された。遠く離れている人へのつのる想いをポップで爽やかなメロディに載せて歌った。
大好きよ 好きよ 好きより もっと
好きよ 好きよ 好きなの ずっと
という、小細工なしに「好き」という言葉を繰り返すサビのフレーズが印象的。この曲を今聴くと、「好き」という感情の中に見え隠れする切なさが、より強く伝わってくるのは私だけだろうか。ちなみに作曲は布袋寅泰。
第8位:罠におちたら / 石毛礼子
1981年に「旅の手帖」という爽やかな曲でデビュー。その後も清楚なイメージが続いていたのだが、この曲でガラっとイメージチェンジ。スリリングかつ大胆な恋の駆け引きを描いている。あまりの変貌にとても驚いた記憶がある。
あなたのテレフォンは
8・3・4・9ね
ヤ・サ・シ・クと読めたら
罠におちていたわ
SUKI SUKIでも
SUKI(隙)を見せないわ
ZOKU ZOKUなら
ZOKU(俗)に言う恋ね
… など、森雪之丞の言葉遊びがスゴい。
第7位:誰もICHIGOがわからない / ICHIGOちゃん
『夕やけニャンニャン』が放送されていた1985年、関西では『YOUごはんまだ?』という公開生放送の裏番組があり、番組内で “ICHIGOちゃん” というアイドルグループが結成されたのだが、そのデビュー曲がこれ。
ドジでエッチで軽い子だと
私見てるなんて未熟よ
イチゴだけの井戸端会議じゃ
過激すぎる会話が飛ぶけど
… というフレーズからも、明らかにおニャン子を意識したと思われる作りになっていて、パチもん(いわゆるニセモノ)扱いする人もいたのだが、とても明るくキャッチーな曲で、私は「セーラー服を脱がせないで」よりはこちらのほうが好きだった。
関西限定でしかわからないと思いきや、意外と他の地方の人も知っているという謎の名曲。なお、関西では『夕やけニャンニャン』の放送開始は、『YOUごはんまだ?』よりも遅かったことを付け加えておく。
第6位:NAI・NAI 16 / シブがき隊
シブがき隊といえば、もうこれしかないでしょう。
笑わせるぜ 靴箱にラブレターなんて
… と歌うアンタたちが笑わせるぜ! と言いたくなるほど奇抜なフレーズが飛び出すデビュー曲。しかしそのインパクトが、間違いなくシブがき隊の人気に繋がったと思う。
そしてシブがき隊にセンセーショナルなタイトルの曲が多かったのは、このデビュー曲のインパクトが強烈だったからに違いない。こういう “ヤンチャでちょいワルで強気な男子” が、当時の女子にはモテていた… と、全く真逆のキャラである私はずっとそう思っていた。
第5位:とまどいの週末 / 堀ちえみ
デビュー年にリリースされた4枚目のシングル。作詞・作曲とも森雪之丞。「あのね」「そのね」などの問いかけるような言葉と、マイナー調のセンチメンタリズム溢れるメロディが、“かよわくて守ってあげたくなる女の子” の心情を巧みに描いている。
この曲が「さよならの物語」「青い夏のエピローグ」など、その後の堀ちえみの方向性をガッチリ定めたのではないかと思う。事実、この曲からレコードセールスの数字がグッと上向きになっていく。
しかし前作「待ちぼうけ」では “あなたがなかなか来なくて帰っちゃったけど時計が2時間進んでたわ、テヘッ!” みたいな、とてもウブな女の子だったのに、この曲では「もうすぐ電車がなくなるわ」と、急に大人びて進んでる女の子になっていたからちょっとビックリした。
第4位:愛、どうじゃ。恋、どうじゃ。 / 研ナオコ
タイトルを見たときに、70年代後半から80年代にかけて放送されていたバラエティ番組『カックラキン大放送』の1コーナー「ナオコお婆ちゃんの縁側日記」で見せるコミカルな雰囲気をイメージしてしまったが、想像を思い切り裏切るクールなナンバー。
歌い出しの「この恋 どうじゃ ハラハラしそうじゃ」や、サビの「koki kuru kuru kuru kuru pappa」など、奇天烈なフレーズが並ぶのだが、筒美京平の繰り出すオシャレなメロディと、大村雅朗のデジタルなアレンジに不思議とマッチしていて、アダルトな仕上がりになっている。
「koki」は「好機」? それとも「好奇」? しかし「kuru kuru kuru kuru pappa」の意味は私にはいまだにわからない(笑)。ご本人も出演した、1983年コーセー化粧品秋のキャンペーンCMソング。
第3位:♂×♀×Kiss / 松本明子
なかなかにセンセーショナルなタイトルのデビュー曲。「つまりANOまえぶれ」「最初が あなたで うれしい」など、中森明菜「少女A」あたりから始まった、いわゆる “喪失歌謡” 路線のアプローチだったのだろう。セールスは全く振るわなかったのに、世間的にこの曲がわりと記憶に残っているのは、松本明子の新人らしからぬズバ抜けた歌唱力はもちろんのこと、この強烈なタイトルと刺激的な歌詞のおかげだろう。
バラドルとして活躍するようになってからも、この曲はよくネタとして扱われ、テレビで共演者からいじられたりしていたので、タレントとしても活躍している彼女にとっては、ある意味最高のデビュー曲だったと言える。
第2位:悲しみよこんにちは / 斉藤由貴
アニメ『めぞん一刻』の初代オープニングテーマ。それまでの斉藤由貴は、センシティブなイメージの曲が続いていたので、明るくポジティブな曲に少しだけ驚いた記憶がある。嬉しいこともあれば辛いこともある。受け入れて前に進んでいこう… という前向きに頑張ろうと思えるナンバー。
自分自身への応援ソングとして聴いている人も多いのではないだろうか。
涙が乾いた跡には 夢への扉があるの
今度 悲しみが来ても
友達迎える様に微笑(わら)うわ
… というフレーズにグッとくる。ちなみに作曲は玉置浩二。
第1位:月の舟 / 池田聡
オリエンタルな雰囲気が漂う名曲。「月の舟」という言葉を聞くと、私は万葉集の和歌「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」が思い浮かんだのだが、そこにインスパイアされて書かれたのだろうか。
ふれてすぐ離れた 硝子のキスは
眩しくて脆くて 胸を熱くする
… という歌詞から、静かな中にも強く深い愛を感じる。作曲の中崎英也が紡ぐメロディも美しい。
森雪之丞というと、過激な言葉遊びのインパクトが強すぎて、そういう作品ばかりがクローズアップされがちだが、こんな美しい情景を描いた詞もあるのだということを改めて知ってほしい。ちなみにこの曲は槇原敬之やCHEMISTRYもカヴァーしている。
―― 以上が、メジャーからマイナーまで、私が選んだ森雪之丞の傑作10選。こうして並べてみたら、思っていた以上に作品の幅が広い。そしてどの曲も印象が強いものばかりだった。みなさんも、よく聴いている曲の作詞が実は森雪之丞だった、ということがあるかもしれないので、チェックしてみてはいかがだろうか。私もまだまだ知らない名曲があるはずなので、この機会に探してみようと思う。
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2022.01.14