リマインダーの人気連載「黄金の6年間」が待望の書籍化
音楽、テレビ、映画、文学の各分野がクロスオーバーを始め、新しい才能が芽生えた1978~1983年。この「黄金の6年間」になぜエンタメ界が進化し、優れたクリエイターや話題作が次々と生まれ、今につながるスタンダードになり得たのか。その深層を読み解いていくリマインダーの人気連載が書籍化されました。
『黄金の6年間 1978-1983 ~ 素晴らしきエンタメ青春時代』は、全国の書店、電子書籍にてお買い求めいただけます。今回はその中から一篇を紹介します。ぜひお楽しみください(Re:minder 編集部)。
クリエーティブの能力を発揮しやすくする “制約”
作家性と商業主義は両立できるか?
―― クリエーティブの世界で、終生つきまとうテーマである。映画にしろ、テレビドラマにしろ、あるいは音楽にしろ、常にそのテーマはつきまとう。スポンサーの意向は無碍にできないし、かと言って要求を聞きすぎて、作品のコンセプトが霞んでしまうようだと本末転倒である。誰からの出資にも頼らず、一人で作って、ネットに発表するなら別だけど。
僕の考えを言わせてもらうと―― 両立できると思う。
例えば、スタジオジブリ制作の宮崎駿監督の映画に『紅の豚』(92年)がある。同作品は当初、日本航空の機内上映用の短編映画として企画されたが、脚本を書き進めるうちに尺が延び、結局90分を超える長編となり、劇場公開されたという。
その映画、空軍パイロットが活躍する話なのに、劇中に決定的な墜落シーンは登場しない。それは日本航空がスポンサーだからである。でも、それで作品のクオリティーが落ちたかというと、違う。ドッグファイト(空中戦)もちゃんと描かれているし、機体が破損しても飛行艇なら海上に着水できる。そう、墜落しない縛りが、逆に1920年代のアドリア海を舞台とした “飛行艇の時代” を描かせたのだ。物語の世界観がクッキリとして、俄然、話が面白くなったのである。
『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)でお馴染みの佐藤雅彦さんの有名な言葉がある。
「制約が、人間の知性の翼を羽ばたかせる」
そう、人はフリーハンドの状態よりも、何か制約がある方がクリエーティブの能力を発揮しやすいという意味である。
それを音楽の世界で証明したのが、あの5人組のバンドだった。
デビューから2年、ゴダイゴが大切にした作家性
ゴダイゴというバンドがある。かつて1970年代後半から80年代初頭にかけて立て続けにヒットを飛ばし、一世を風靡した5人組だ。85年に一度解散したが、06年に2度目の再結成を果たし、現在も活動は続いている。ちなみに英語表記は「GODIEGO」。まさに、GO(生きて)・DIE(死して)・GO(再び生きる)を、身をもって証明している。
―― いや、そんな小ネタを言いたいんじゃなかった。ゴダイゴにみられる作家性と商業主義の両立の話である。
彼らのデビューは76年。ミッキー吉野さん率いるバンドに、既にソロデビューしていたタケカワユキヒデさんが加わる形で結成された。だが、2年ほどは売れない時代が続く。
当時のゴダイゴの曲は、全て英語の歌詞だった。プロデューサーを務める奈良橋陽子サンが英語で作詞し、タケカワさんが曲を付ける。それは彼らなりの作家性だった。CMソングであろうと、映画やテレビのタイアップであろうと、その姿勢は変わらなかった。
ゴダイゴに訪れたデビュー以来最大のピンチ
78年秋、ゴダイゴはデビュー以来最大のピンチを迎える。次の7枚目のシングルが売れなければ、契約を切られるという。そこで捨て身となった彼らは、初めてクライアントの声に耳を傾けた。先方のリクエストは “日本語の詞” だった。そしてリリースされたのが、日本テレビ系のドラマ『西遊記』のエンディング曲「ガンダーラ」である。
同曲は、ドラマの人気も手伝い、オリコン年間6位となる大ヒット。そのジャケットも、ゴダイゴの5人が西遊記のキャラクターにふんする、タイアップ色を前面に出したものだった。ちなみにミッキー吉野さんに選択の余地はなく、当たり前のように猪八戒にふんしていた。
―― そう、作家性と商業主義の両立がそこにあった。英語の詞から日本語の詞へ、そしてタイアップ色を前面に出したジャケット―― だが、それでゴダイゴの音楽性が失われたわけではない。逆に、それを機に彼らの快進撃が始まった。「モンキー・マジック」、「ビューティフル・ネーム」、「ホーリー&ブライト」―― 78年暮れから79年にかけて、ヒットチャートにゴダイゴの名を見ない日はなかった。
映画主題歌「銀河鉄道999」の最も正しい鑑賞法は?
そして極めつけは、1979年7月1日にリリースされた11枚目のシングル「銀河鉄道999」である。そのジャケットにはメーテルが大きく描かれ、5人は卒業写真の撮影日に欠席した生徒のように、小さなワイプで処理されていた。曲と映画のタイトルが同じ。100%のタイアップだ。
当時、彼らは多忙を極め、タケカワユキヒデさんはレコーディングの前日、わずか一晩で曲を書き上げたという。それにミッキー吉野さんが珠玉のアレンジを施した。
あの夏のことは、よく覚えている。その日―― 僕はクラスの仲間と一緒に、8月4日に封切られたばかりの同映画を見るために、福岡・中洲の映画館に出かけた。79年は4月に『ドラえもん』と『機動戦士ガンダム』のテレビ放映が始まり、9月に劇場版『エースをねらえ!』、12月に映画『ルパン三世 カリオストロの城』が封切られたアニメの当たり年だった。
映画のラストシーン。メーテルを1人乗せた999が旅立つ。見送る鉄郎。やがて汽車は一筋の光となり、空の彼方へ―― そこに城達也さんのナレーションがかぶさる。
今 万感の思いを込めて 汽笛が鳴る
今 万感の思いを込めて 汽車が行く
ひとつの旅は終わり
また新しい旅立ちがはじまる
さらばメーテル
さらば銀河鉄道999
さらば―― 少年の日よ
―― 切ない。人の別れと言うのは、なぜかくも切ないのだろう。スクリーンは鉄郎の背中を映す。もう汽車の姿はなく、ただ汽笛の音だけが聴こえる。
その時だった。「♪ チャーンチャーン」と軽快な前奏が劇場に鳴り響いた。それはゾクゾクするほどカッコよく、客席を覆っていた重たい空気が一瞬で霧散した。
さあ行くんだ その顔を上げて
新しい風に 心を洗おう
古い夢は 置いて行くがいい
ふたたび始まる ドラマのために
―― 僕は今に至るまで、これほどカッコいい映画のエンディングを見たことがない。断言する。この曲は、映画のラストシーンとセットで見る(聴く)のが正しい鑑賞法である。少々長くなるが、鉄郎とメーテルの別れの場面から見るのをお薦めする。
繰り返す。作家性と商業主義は両立できる。
※2017年7月1日、2020年8月4日に掲載された記事をアップデート
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2022.04.03