かつて、星野鉄郎という少年と共に私は数多の惑星を巡る旅に出た。
誰の心にもある青春の日々。
メーテルという美しい大人の女性との出会い。初恋と甘い胸のときめき。母の面影。愛する男の行方を追う女海賊エメラルダスとの邂逅。そして、クリスタルガラスの身体を持ったクレア。彼女は自己犠牲もいとわない献身的な少女だった。
銀河鉄道999に乗り旅を続ける中で私は様々な女性たちの前を通り過ぎる。中でも印象に残っているのが酒場の女リューズ(※1)である。
それは、トレーダー分岐点と呼ばれる惑星ヘビーメルダーでの出来事。寂れた路地裏を鉄郎の後について行ったときのことだ。地下へと続く階段を降りていくとギターを爪弾く音が聞こえてくる。そこは場末のBAR。老いかけた男女が集い酒を飲んでいる。若い頃の輝かしい時間を思い出しているのだろう。彼らはリューズのやさしい歌声に耳を傾けながら涙を流す。
何が欲しいと言うの
私、それとも愛
つばさいやす鳥たちも
私を欲しいとさわがしい
こわれたおもちゃ箱を子供みたいに
抱え込んで、涙ぐんで
それでどうなるの
少年だったあの頃、私はこの曲をなんて湿った寂しい曲なんだろうと思っていた。たしかあの時、鉄郎はバーテンの親父にこう言った。
「どうして、みんな泣いているんです?」
私もなぜ彼らが泣いているのか、到底、理解することが出来なかった。すると親父は鉄郎にこう返した。
「歌のせいじゃよ。遠い昔、もう二度と帰らない若い頃を思い出すんじゃ。旅路の果てに行き着いた者たちには、やるせなく聞こえてくるんじゃよ。」
気が付けば、私も年齢を重ね酒場にいた大人たちと変わらない年齢に達している。今ようやく彼らがまとっていた哀愁を理解して、この歌を心の奥から引っ張り出すことにした。ジンビームとウィルキンソンでハイボールを作り、999のDVDをミュージックプレイモード(※2)に設定して飲む。ほろ苦い過去の想い出に浸っていると今夜はつい飲み過ぎてしまった。明日は未来を見て目覚めよう。そう思いながら眠りについた。
やさしくしないで / かおりくみこ
作詞:中原葉子
作曲:中村泰士
編曲:青木望
発売:1979年(昭和54年)8月1日
※1:酒場の女リューズは鉄郎が母の敵(かたき)と探している機械伯爵の愛人。機械伯爵の居城 “時間城” にある時間を操る装置によって愛する伯爵の後を追い命を絶つ。永遠の命が約束されている機械の身体が錆び、朽ちていく姿が美しく、とても印象に残っている。
※2:劇場版「銀河鉄道999」のDVDにはサウンドトラックのみを聴くことが出来る “ミュージックプレイ” と曲名選択できる “ミュージックチャプター” がある。後に「幻魔大戦」(1983年)でキース・エマーソンとの共作を実現させる青木望の楽曲の素晴らしさを是非体験してほしい。
2017.03.31
YouTube / waka0130
YouTube / kixfco さんのチャンネル
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