ジョージ・ハリスン「過ぎ去りし日々」スターズ・オンに続く大ヒット
40年前の今日、1981年7月4日付のアメリカBillboardのシングルチャートで、ジョージ・ハリスンのジョン・レノン追悼シングル「過ぎ去りし日々(All Those Years Ago)」が2位まで上昇した。ポール・マッカートニーもリンゴ・スターも参加しビートルズ “再結成” となったこの曲は3週連続で2位を保つのだが、この年年間No.1のキム・カーンズ「ベティ・デイビスの瞳」に阻まれ1位獲得はならなかった。しかし年間チャートでも74位の好成績を残している。
この2週前1位に輝いたスターズ・オンの「ショッキング・ビートルズ」に続くビートルズ関連ソングの大ヒットで、アメリカでジョン・レノン追悼シングルがトップ10に入ったのはこれが初めて。そしてジョージ自身にとってもアメリカでのトップ10入りは、1973年のNo.1ソング「ギヴ・ミー・ラヴ」以来実に8年振り3曲めであった。
スターズ・オンと並び1981年のビートルズ再評価を象徴する大ヒットとなったこの曲、しかし元はリンゴ・スターに提供された曲だったのだ。
リンゴ・スターに提供された曲を改作
カタリベ宮井章裕君の
『ジョージ・ハリスンの知られざる秘話、ふたつの母なるイングランド』にも詳しく書かれているが、1980年11月にリリースされるはずだったジョージのアルバム『想いは果てなく~母なるイングランド(Somewhere In England)』は、レコード会社から収録曲の一部差し換えとジャケット変更を命じられ、リリースも先送りされた。
改めて収録曲を録音している最中、ジョン・レノンの訃報が届く。そこでジョージは、既にリンゴ・スターに提供し録音を済ませていたが、リンゴにはキーが高く、歌詞の出来も芳しくなかった1曲に新たにジョン追悼の歌詞を載せ、自らが歌うことにした。これが「過ぎ去りし日々」である。
その後、ポール・マッカートニーに声をかけ、妻のリンダ、ウイングスのデニー・レインの計3名がコーラスを加えた。ビートルズ解散後ジョージとポールの共演はこれが正真正銘初めて。ジョンの逝去が正に2人を結びつけたのだが、実を言うとリンゴのドラムスはジョンの生前に既に録音されていて、完全な “再結成” というわけではなかったのである。
「過ぎ去りし日々」は追加で作られた曲ながらアルバムの先行シングルとして、1981年5月にアメリカとイギリスでリリースされた。
「ずっと尊敬していた」に込められたジョージ・ハリスンの想い
『思いは果てなく~母なるイングランド』用の新たな曲を急いで用意しなくてはならなかったのが「過ぎ去りし日々」が変則的な形で作られた一因であると思うが、ジョージが急いだのにはもうひとつ大きな理由があったと僕は考える。
I always looked up to you
僕は常に君を尊敬していた
“All You Need is Love” “Imagine” といった曲名を上手く導入した歌詞の中で、中盤のこの生硬な一句にふと目が留まる。言わずもがなとも思うのだが、ジョージはこの言葉をどうしても歌にしたかったのではないか。
生前ジョン・レノンは『PLAYBOY』誌のインタビューで、ジョージが自伝『アイ・ミー・マイン』でジョンのことに一言も触れなかったことに「傷付けられた」と感情を露わにしている。曲作りに関する影響を完全に解説していると銘打ちながら自分の名前は全く出て来なかったと憤っている。
ジョンも認めていた通り、3歳離れたジョンとジョージは先輩と後輩のような関係で、ジョージはジョンに対し愛憎入り混じった感情を抱いていたのであろう。ジョンも本のことでは腹が立っているけれど、ビートルズのメンバーは皆大好きだと締め括っている。
しかし悲しい哉、これがジョージにとっては最後のジョンの言葉になってしまった。ジョージの想いは如何ばかりだっただろう。ジョンへの敬意をいち早く公にしたいとジョージが考えても無理はない。
リンゴ・スターには名曲が集まる?
「過ぎ去りし日々」は本国イギリスでは最高13位に終わった。率直に言って当時高1の僕も胸躍るというところまでは行かなかった。リンゴへの提供曲のリメイクという背景を知ってしまうと尚更である。しかしアルバムの差し替え曲が求められていたこと、尚且つジョンへの敬意をいち早く表す必要があったことを考えると、限られた時間での制作も止むを得なかったと今では思うのである。
この7年後、ジョージは「セット・オン・ユー(Got My Mind Set On You)」で今度は完全に自力で全米No.1を獲得する。今考えても快心の出来事だった。
それにしてもこの曲も、ジョン・レノンの目下最新の全米トップ10ヒット「ノーバディ・トールド・ミー」も、拙コラム
『祝40周年「ベストヒットUSA」小林克也のVJスタイルはクリエイターへのリスペクト!』で取り上げたポール・マッカートニーの「テイク・イット・アウェイ」も、元はリンゴ・スターに提供される予定の曲だったというから驚いてしまう。
2021.07.04