7月5日

井上大輔が80年代に果たした功績、貫かれたロックンロール小僧のスピリット!

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グループサウンズシーンをリード、ブルーコメッツのフロントマン井上大輔


僕自身と深い接点があるわけではないのだけれど、ずっと気になり続けているというアーティストが何人かいる。井上大輔もそのひとりだ。

本名は井上忠夫、1981年に井上大輔と改名している。彼は一般的にはジャッキー吉川とブルーコメッツのフロントマンとして知られているから、1960年代の人というイメージが強いのかなと思う。けれど、彼が80年代に果たした功績にももっとスポットが当たってもいいんじゃないか。僕はそう感じている。

井上忠夫は1941年9月13日東京生まれ。バイオグラフィーによると、ジャズ喫茶で演奏中にスカウトされ、1963年にジャッキー吉川とブルーコメッツに参加、サックス、リードヴォーカルを担当したとある。このあたりを少しだけ補足すると、当時ブルーコメッツはさまざまな人気歌手のバック演奏を勤める “プロの職人バンド” だった。当然、井上忠夫がスカウトされたのも、その演奏力を評価されたからだった。

井上忠夫の加入後もブルーコメッツはバックバンドとしての活動を続け、1965年にはザ・ピーナッツのバックで紅白歌合戦にも出場した。しかし、翌1966年に自分たちだけで活動をしたいと、英語詞による「青い瞳」でレコードデビュー。1967年に「ブルー・シャトウ」を大ヒットさせるなど人気を集め、田辺昭知とザ・スパイダースとともに60年代後期のグループサウンズ(GS)シーンをリードする存在となった。

作曲家としての才能も発揮、80年代に示した存在感


こうしてブルーコメッツがバンドとして自立する原動力となったのが井上忠夫の意志だったという。そして彼は作曲家としても「青い瞳」「ブルー・シャトウ」をはじめ多くの楽曲を手掛け、作曲家としての才能も発揮していった。しかしGSブームの衰退と共にブルーコメッツも低迷。井上忠夫は1972年にグループを脱退し、職業作曲家としての本格的活動をスタートさせる。

作曲家としての井上忠夫は、フィンガー5の「恋のダイヤル6700」(1973年)、「学園天国」(1974年)を大ヒットさせるなど精力的に作品を手掛けて脚光を浴びていく。しかし、井上忠夫が作曲家として最大の存在感を示したのが80年代だった。

1980年、彼が作曲したシャネルズのデビュー曲「ランナウェイ」が大ヒット。その後の「トゥナイト」(1980年)、「街角トワイライト」(1981年)などの代表曲を手掛けただけでなく、彼らがラッツ&スターとして再スタートする際のファーストシングル曲「め組の人」も提供している。

1981年、彼は井上大輔へと改名するが、これを弾みに次々とヒット曲を生み出していく。「NAI・NAI 16」、「100%…SOかもね!」(1982年)などのシブがき隊の一連のヒット曲、大友裕子の「ボヘミアン」(1982年、翌1983年に葛城ユキのカバーで大ヒット)、さらに1984年には郷ひろみの「2億4000万の瞳」……。

シンガー井上大輔のヒット曲「哀 戦士」「めぐりあい」


これだけでも80年代において井上大輔が果たした功績の大きさは了解してもらえるのではないかと思うけれど、この時期彼はシンガーとしてもヒット曲を出している。1981年には「哀 戦士」、1982年にも「めぐりあい」を井上大輔名義でオリコンシングルチャートの10位以内に送り込んでいるのだ。

ちなみに「哀 戦士」は1981年に公開された映画版の『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士』主題歌、「めぐりあい」は1982年公開の映画版『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙(そら)編』主題歌だ。これは “ガンダム・シリーズ” 総監督の富野由悠季が、大学時代の友人だった井上大輔に曲を依頼したことで実現した企画だった。

井上大輔が作曲・歌唱している「哀 戦士」「めぐりあい」、さらには挿入曲「風にひとりで」(『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士』)、「ビギニング」(『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』)は今でもアニソンの名曲として親しまれており、聴くこともそれほど難しくない。井上大輔のシンガーとしての素晴らしさと楽曲の良さを、これらの曲から感じてもらえればと思う。

井上大輔のサックスプレイから伝わるロックンロールテイストと色っぽさ


もうひとつ、僕にとって80年代の井上大輔の印象を強烈なものにしたのがそのサックスプレイだ。もともと彼はサックス、フルートのプレイヤーとしてキャリアをスタートさせていが、ブルーコメッツ脱退後、僕はほとんど彼のサックスプレイを耳にしていなかった。

しかし、山下達郎が1983年に発表したアルバム『MELODIES』のオープニングナンバー「悲しみのJODY(She Was Crying)」で、久しぶりに井上大輔のテナーサックス・ソロを聴いたのだ。「悲しみのJODY」の演奏はすべて山下達郎自身が行っており、他の楽器プレイヤーとして起用されていたのは井上大輔ただ一人だった。

さらに同じ1983年に発表されたシングル「スプリンクラー」でも井上大輔がテナーサックスを吹いている。こちらのテイクは、山下達郎の他、青山純(ドラムス)、伊藤広規(ベース)とのアンサンブルだ。

ずいぶん前のことだけど、どうして「悲しみのJODY」で井上大輔を起用したのかを山下達郎に聞いたことがある。というのも当時の彼はサックスに土岐英史を起用することが多いという印象があったからだ。答えは「井上大輔さんはロックンロールのサックスが吹けるんだ」というものだった。

確かに「悲しみのJODY」のようなテイストの8ビートナンバーは、下手にスタジオミュージシャンで演奏するとグルーヴが生きてこないことがある。だからこそ、彼はこの曲の演奏をすべて自分で行ったのだろう。そして、あえてこの曲に井上大輔を起用した。そのことが井上大輔のプレイヤーとしての魅力を雄弁に物語っていると思った。

「悲しみのJODY」と「スプリンクラー」で聴ける井上大輔のサックスの音は熱い。その熱さは、確かに60年代に響いたキング・カーティスやブーツ・ランドロフなどのロックンロールのサックスプレイに通じる色っぽさがたっぷり匂う “熱さ” だ。

そして、このサックスプレイから伝わってくるロックンロールテイストと色っぽさこそが井上大輔の最大の魅力なんじゃないかと僕は思っている。

江戸っ子・井上大輔の作品に感じた“粋”


井上大輔が書いたヒット曲を見ていくと、“歌謡曲的なわかりやすさ” はありつつも、そこに洋楽ベースのポップ感覚、もっと言えば “ロックンロール小僧のスピリット” が貫かれているように感じる。

たぶん、それは洋楽を念頭に置きながらも歌謡曲の現実と妥協せざるを得なかったブルーコメッツ時代に学んだ彼なりの音楽への向き合い方だったのではないだろうか。時代のニースにしっかりと応えながらも、その中に自分の “想い” を潜ませていく。しかも、そんな “想い” が、ひとつひとつの作品を “色っぽく” 際立たせている。そうした井上大輔作品のたたずまいが、僕にはとても “粋” に感じられた。

手元にある井上大輔のプロフィールには「東京生まれ」としか書いていない。しかし、たしか彼は神田の生まれで、神田明神界隈を庭にしていたと本人から聞いたことがある。それを聞いた時、僕は「そうか、この人は生粋の “江戸っ子” だったんだ。そりゃ “粋” なハズだ」と、納得したことを今でも忘れられない。

2000年5月30日、彼はこの世を去った。そのキャリアが20世紀で途切れてしまったのは残念でならないが、せめて彼の残した作品たちが世代を越えて生き続けて欲しいと思う。



2021.05.30
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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