10月6日

世界的大ヒットを封印して制作された a-ha の問題作、現在の感性で聴いてみると?

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爽やかなポップネスを封印したa-haの問題作「スカウンドレル・デイズ」


スポーツ選手に “2年目のジンクス” があるように、アーティストやミュージシャンにも “2枚目のジンクス” がある。

a-haはデビュー曲「テイク・オン・ミー」で80年代を象徴する大ヒット曲を手に入れた。デビューが鮮烈であればあるほど、それに続く作品づくりは難しいものになることは容易に想像がつく。こうしたプレッシャーの中、セカンドアルバム『スカウンドレル・デイズ』はデビューアルバム『ハンティング・ハイ・アンド・ロウ』にあった爽やかなポップネスを封印した “ちょっとした問題作” として1986年に私たちに届けられた。

「テイク・オン・ミー」に魅了された大多数のファンはセカンドアルバムにも抜群のポップソングを期待していたことだろう。しかし、a-haの3人は、前作と比べるとかなり重く暗い内容のセカンドアルバム『スカウンドレル・デイズ』を作り上げた。本作は、単なるティーン向けのポップアイドルバンドから大人のロックバンドへ成長するための大きなチャレンジだったのではないだろうか?

そうしたバンドの主義主張はとても理解できる。できるのだけど、リリース当時、中学3年生だった私は「もっとポップなのが聴きたいなぁ」と正直なところ思っていた。そんなわけで期待を持って聴いた『スカウンドレル・デイズ』だったのだが、残念ながら当時の私の愛聴盤にはならなかった。

2020年代の感性で聴いて実感、ドリームポップやシューゲイザーとの近似性


本作のリリースから10年以上の歳月が流れ、私も大人になって趣味を活かしてDJなんぞをやるようになっていた。90年代半ば以降には、80年代を懐かしむための80sイベントがにわかに盛り上がっており、こうした80sイベントでDJをする機会も少しずつ増えていった。

当然、a-haの「テイク・オン・ミー」は完全無欠の鉄板曲で爆アゲ必至のナンバーだ。そんな折、「テイク・オン・ミー」以外にもDJで使えるa-haの曲はないものかと、10数年ぶりに『スカウンドレル・デイズ』を聴いてみたのだ。

90年代の感性で聴いた『スカウンドレル・デイズ』は1986年の感性で聴いた時とは、全く違う印象を私に与えた。この時点で私たちはレディオヘッドの「クリープ」やニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を普通にヒット曲として楽しむだけのオルタナティヴな感性を身に付けていたのだ。

オルタナ以降の耳で聴く『スカウンドレル・デイズ』はポップでソリッドな作品として私には響いた。この感覚の変化以降、私は度々、『スカウンドレル・デイズ』を聴くようになった。また、80sイベントでも「ルージング・ユー(I’ve been losing you)」を爆アゲちょっと前のアクセントになるようなタイミングで積極的に選曲するようになっていた。

そして現在2020年代の感性で『スカウンドレル・デイズ』を再度、聴き直してみよう。

a-haがもともと持っていた透明感と浮遊感、90年代に気付かされたオルタナ感覚、こうした要素が最も端的に表現されているナンバーが「マンハッタン・スカイライン」だろう。静寂と轟音が同居する曲構成は、現在のドリームポップやシューゲイザーとの近似性を強く感じることができ、最近のロックバンドと言われても納得できるような音像を鳴らしているのだ。

時代を超越したタイムレスな傑作「スカウンドレル・デイズ」


1986年、中学3年生の私をガッカリさせた『スカウンドレル・デイズ』は35年もの歳月をかけて、その魅力を増幅させていった。

リリース当時、時流やシーンの動向にマッチしなかった作品が、年月の経過を経て再評価されることはロックシーンではたまにあることだ。その最たる例がビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』と言えるだろう。

多くの洋楽好き少年少女たちの期待に真正面から応えなかった『スカウンドレル・デイズ』は、歳月をかけて問題作から傑作へと昇華したのだ。

『スカウンドレル・デイズ』は、現在の感性にフィットする作品であり、時代を超越したタイムレスな傑作と言っても過言ではないだろう。多くのファンが期待した “テイク・オン・ミー・パート2” を封印してまで作り上げたオルタナティヴロックの先駆的な作風はバンドにとっての大きなチャレンジであり、リリース当時には見えづらかったバンドの狙いは、今日の感性で聴くことで魅力的に実感できるようになった。こうした魅力を備えた本作は、もっと再評価されるべき作品であり、その再評価が2枚目のジンクスを覆すことに繋がれば幸いだ。


追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。

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2021.10.06
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カタリベ
1972年生まれ
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