11月4日

高まるエクスタシー、僕とマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの官能的瞬間

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マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのセカンドアルバム「ラヴレス」がリリースされた日
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photo:SonyMusic  

僕が生まれた1991年は、エポックメイキングと呼ぶにふさわしいアルバムが(少なくとも)3枚リリースされた年である。はじめにアメリカ、シアトルからカート・コバーン率いるニルヴァーナの出した『ネヴァーマインド』。ザラザラした音像から後にグランジムーブメントを起こすことになる名盤だ。

次に大西洋を渡り、スコットランドのグラスゴーからはボビー・ギレスピー率いるプライマル・スクリームがクラブカルチャーとロックンロールの融合を果たし「セカンド・サマー・オブ・ラブ」ムーブメントの金字塔となった『スクリーマデリカ』を発表。そして3枚目がプライマル・スクリームと同じレーベルから出たマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下MBV)の『ラヴレス』である。

僕のペンネーム(と言ったら大げさだが)は、この MBV が定義したと言っても過言ではない「シューゲイザー」というジャンルから取っている。特徴は轟音のエレキギターノイズと甘美なメロディ。足元に置かれた、ノイズをさらに歪ませるために使うエフェクターをギタリストが凝視する(くつ=Shoe を見つめる=gaze)様子からつけられた蔑称なのだが、いつのまにか「シューゲ」として定着した。

さて問題は『ラヴレス』である。率直に言おう。初めて CD で聴いた時「何かの間違えではないか」と思った。まず、ヴォーカルがふわふわとして聴こえない。輸入盤で歌詞カードもなかったように思う。

そして「うるさい」。

高校生の時だったので、中間試験の終わった開放感が台無しになったと、この「有名な」CD を買ったことを後悔した。しかしお金がないので「買った CD は次の定期試験で良い成績を取りお小遣いが出るまで聴き続ける」という宿命にあった僕は、何度もこのよく分からないアルバムを聴くことになったわけである。

すると奇妙なことに、だんだんと「ただの騒音」であったものが「心地よさ」に変わっていったのだ。なぜだろうか。

一つエピソードを挙げよう。ジョン・ケージという作曲家がいる。演奏家が何も演奏しない(!)という前衛楽曲「4分33秒」なる音楽を作曲した男だ。彼が無音室に入った時、体内に流れる血の鼓動が聞こえ音は無音の中でも聴こえ悦びを感じたらしい。

つまり、我々の身体そのものが音を発しているということだ。それは1つの楽器とも呼べるかもしれない。そもそも音は波動である。『ラヴレス』を大音量で聴いてみよう。すると、自分の身体(脂肪・筋肉・骨)と血がブルブルと震えるのを感じる。

MBV のノイズの波動が体内に入り込み、身体の奏でる音とシンクロする。身体の中に『ラヴレス』が入り込むのだ。またこれは身体が「拡張」していくということでもある。『ラヴレス』に自分の身体が同期していくのだから。自分の音と MBV の音とが「淫する」官能的な瞬間。それがエクスタシーに似た「心地良さ」を生む仕組みだ。

MBV の真骨頂はライブにある。音が大きければ大きいほどエクスタシーは高まるのだから。来日する度に行っているが、今回は8月17日から18日に亘って深夜に行われたソニックマニア2018で彼等を観た。

とてつもないノイズから耳を守るため、ライブなのに耳栓が配られる。演奏が始まっても観客の中には目を瞑っている人もいる。下を向き文字通り「シューゲイズ」している人もいた。端的に言って普通のライブではない。当たり前だ、MBV のライブは儀式なのだから。

僕も耳栓などせず深夜3時にスピーカーの前で目を閉じながら MBV のジェットエンジンのような爆音に身体を任せていた。

あれほど素晴らしいライブはない。素直にそう思った。自分が幕張メッセの中に溶け込んで拡がり、まるで温かな毛布に包まれたようなイメージが浮かんだ。天上の音楽、約2時間のエクスタシー。単なるノイズではない、身体が躍動する音そのものである。『ラヴレス』の偉業は音の本質を計算し尽くして構築したところにある。

僕と同い年のこのアルバムと MBV を死ぬまで追い続けるだろう… そう心に再び誓った美しい瞬間であった。

2018.10.03
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カタリベ
1991年生まれ
 白石・しゅーげ
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