9月1日

コクトー・ツインズの原点「ガーランズ」呪術と電子工学の出会い

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コクトー・ツインズのデビューアルバム『ガーランズ』がリリースされた日
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4ADの美学を象徴するバンド、コクトー・ツインズ


「コクトー・ツインズが現れて、4ADは以前と同じではいられなくなった」-- とマーティン・アストンがレーベルの歴史を綴った一大絵巻『4AD物語(Facing the Other Way - The Story of 4AD)』に書きつけるほどに、コクトー・ツインズは 4AD 美学を象徴するバンドだ。なかでもサードアルバムの『トレジャー』は彼らの最高傑作にして、80年代ゴスロックを象徴する一枚としてあまりにも有名だろう。

その点、彼らのファーストアルバム『ガーランズ』について触れられることはあまりない。セカンドアルバム『ヘッド・オーヴァー・ヒールズ』の成熟に比べると、たしかに『ガーランズ』は飛びぬけた楽曲があるわけでもなく、全体にモノトーンで地味だ。とはいえ「処女作にすべてがある」のだとしたら、放っておくわけにもいかない。『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン)で “暗黒批評家” として禍々しくデビューした僕としても、人のヴァージン喪失の瞬間には大いに関心があるのだ(?)。

キーマンは2人、ギターのロビン・ガスリーとヴォーカルのエリザベス・フレイザー


一体誰が言い始めたのか分からないが、それなりに理にかなっている格言「良いバンドにはたいてい二人のキーマンがいる」-- でいくと、ギターのロビン・ガスリーとヴォーカルのエリザベス・フレイザーの2人(のちに結婚し子供をつくり、離婚)がコクトー・ツインズの二人のキーマンということになる。というわけでこの二人のバックグラウンドを掘り下げることで、このバンドのコアに迫っていこう。

ガスリーのリヴァーヴ系エフェクトを使ったミニマルかつ浮遊感あるギターは、ドラムマシーンのモノトーンな演奏に調和しつつも奥行きや幽玄さを与える、彼らのサウンドになくてはならないものだ。『4AD物語』の指摘によると、ガスリーは電子工学の才能を買われて英国石油会社(BPオイル)の見習い工として働いていた経歴があり、ギターのエフェクトペダルの実験操作に長けているのはそのおかげだろうという。

エリザベス・フレイザーのヴォーカルは “妖精的” とも “天使的” とも評される独特の呪術性をもっているが、『ガーランズ』収録の「ブラインド・ダム・デフ」という曲のリリックにその片鱗が現れている。以下のフレーズを見てほしい。

 My mouthing at you
 My tongue the stake
 I should welt should I hold you
 I should gash should I kiss you

多用される “should” をしてマーティン・アストンは「メロディーの呪術(Melodic Incantations)」と評し、統語法(シンタックス)のあいまいさをして「歌詞の不調和(lyrical Disorder)」と評しているが、これがエリザベスの天使的な声で発されると一種神がかりに聴こえるというわけだ。

余談だが、エリザベスと同じスコットランド出身で、野生人の呪術や風習を世界中から集めた『金枝篇』の著者で社会人類学者のジェームズ・フレイザーがいるが、名前と呪術性という共通点もあって、この大著のサウンドトラックは個人的にはコクトー・ツインズがいいかも。

ウィル・ヘギーのベースとヴォーン・オリヴァーのアートにも注目


というわけで、ガスリーの電子工学とエリザベスの呪術性が奇妙な結婚を果たしたのが『ガーランズ』のゴシックサウンドということになるが、もう一点付記するならば、本作は初期メンバーのウィル・ヘギーがベースを弾いている唯一の作品でもある。彼はのちにスコットランドのドリームポップバンド、ロウライフや、サイコビリー系のデッド・ネイバーズなどを渡り歩くことになる。

また、ヴォーン・オリヴァーがヴィジュアル方面を担った 4AD であるということは、サウンドのみならず、このアルバムのカバーデザインも含めトータルで “作品” とみなすべきだろう。

このアルバムのカバーアートには、こんなエピソードがある。リリース当時、『ガーランズ』のダークアンビエントかつモノトーンなサウンドは、米国の音楽雑誌『スピン』などで、スージー・アンド・ザ・バンシーズのデビュー作『スクリーム』と比較された。しかし、ロビン・ガスリーは “ゴス” と括られるのが嫌だったようで、バンシーズとの比較も気に入らなかった。

しかし、前回のコラム『伝説のインディーレーベル「4AD」ディス・モータル・コイルが後世に与えた影響』でも登場した写真家ナイジェル・グリーソンによれば、バンドが彼のポートフォリオから選び、最終的にジャケットに使われたその一枚は、もともとグリーソンが大学で『スクリーム』の別ヴァージョンのイメージを考えるという課題で制作した一枚だった… というのだ。バンシーズとの比較が気に入らなかったとはいえ、なんという皮肉なのだろう…。

ロビン・ガスリーがゴスロックの括りを嫌がったワケ


ところで『4AD物語』によると、“ゴス” の括りをかたくなに拒んだロビン・ガスリーは「僕はデブすぎてゴスにはなれない!」と半ば自虐的なことを言ったという。しかしコクトー・ツインズは、いまやゴスロックの代表的なバンドであり、伝説である。ゴス嫌いのデブがゴスのレジェンドになる… これもまたなんというパラドックスだろう。

4AD 所属のデブなロッカーにはピクシーズのブラック・フランシス(フランク・ブラック)もいるが、傑作『サーファー・ローザ』も広い意味でゴスに括れるような作風だ。それも含めて考えれば、もしかすると 4AD は “デブゴス” なるニッチなジャンルを開拓したのかもしれない。

2020.03.12
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  Apple Music
 

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カタリベ
1988年生まれ
後藤護
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