11月2日

EPICソニー名曲列伝:岡村靖幸「だいすき」が好き過ぎた平成最初の夏

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EPICソニー名曲列伝 vol.21
岡村靖幸『だいすき』
作詞・作曲・編曲:岡村靖幸
発売:1988年11月2日

岡村靖幸の名が広く知られるキッカケ、ホンダ・トゥデイのCMソング


この連載で初めて、画像がついに短冊型の「CDシングル」になった。ジャケットにもあるように、ホンダの軽自動車「トゥデイ」のCMソングとして使われ、岡村靖幸という名前が広く知られるようになったキッカケの曲だ。

CMで使われることを意識したのか、岡村靖幸一流の灰汁(あく)が取り除かれた、耳触りのいい曲である。ただし、「♪ もう劣等感ぶっとんじゃうぐらいに熱いくちづけ」というフレーズには、取りそこねた灰汁を感じるのだが。

私が、灰汁も含めた岡村靖幸の総体に圧倒されるのは、シングル『だいすき』発売から9ヶ月経った、翌89年の7月である。

アルバム『靖幸』発売。

「全てのプロデュース、アレンジ、作詞、作曲、演奏は岡村靖幸によるものです」


何といっても出会い方が衝撃だった。そのときのエピソードは何度か書いている。拙著『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)より。

――忘れられないのは、この89年の夏、NHK-FMで、確か渋谷陽一や萩原健太、今井智子、ピーター・バラカンらが集まる座談会みたいな番組があって、岡村靖幸の名曲『Vegetable』を萩原が紹介し、周囲が「こんなの、プリンスの物まねだ」と批判したのである。そのとき私は、批判には耳を貸さず、その『Vegetable』という曲にノックアウトされ、アルバム『靖幸』を購入し、さらにノックアウト。

89年の夏に聴いていた音楽。
・89年6月1日発売:ユニコーン『服部』
・89年7月11日発売:岡村靖幸『靖幸』
・89年8月25日発売:フリッパーズ・ギター『three cheers for our side~海へ行くつもりじゃなかった』

この傑作にして問題作の3枚のアルバムがリリースされた89年の夏、平成最初の夏は私にとって、音楽的には奇跡の夏だったと、今でも思う。

89年は、私が大学4年生だった年。音楽的に奇跡だった夏を、別の方角から覗くと、就職活動に明け暮れたつまらない夏でもあった。身体になじまないスーツのポケットから伸びたヘッドフォンから流れる、ユニコーン、岡村靖幸、フリッパーズ・ギター。

『靖幸』に話を戻すと、その凄みは、歌詞カードに載せられた、この一文に象徴されている――「全てのプロデュース、アレンジ、作詞、作曲、演奏は岡村靖幸によるものです」。

「プロデュース、アレンジ、作詞、作曲」までも凄いのだが、加えて「演奏」というから凄過ぎる。まさにプリンスだ。

岡村靖幸とプリンスの間にある本質的な共通性とは?


「プリンスの物まね」は批判の対象にはならない。プリンスのように「プロデュース、アレンジ、作詞、作曲、演奏」までこなして、一枚のアルバムをこしらえることが出来るなんて、むしろ称賛の対象だと思う。再び拙著『イントロの法則80's』より。

――確かに、岡村靖幸の当時の作品は、プリンスとの共通性が多いと思う。ただ「物まね」と見下すべき筋合いのものではないだろう。岡村靖幸とプリンスの間には、「物まね」という言葉で表現される表面的な共通性を超えた、言わば「本質的な共通性」がある。それは、自分1人で何から何まで完結させる「全知全能性」である。

――だから岡村靖幸は、プリンスの単なる物まねではない。「根本思想物まね」なのだ。言うまでもなく、80年代世界音楽シーンにおける最上級の天才=プリンスの根本思想を真似られるということは、岡村靖幸も屈指の天才ということになろう。

それもたったの23歳で。恐るべき23歳の登場。

『靖幸』のピンク色のCD。何度聴いたか分からない。もしかしたら、はっぴいえんど『風街ろまん』よりも聴いたのかも知れない。『Vegetable』から『だいすき』を経て『バスケットボール』に至る衝撃の11曲。

圧倒されて、感化された。恥ずかしいことに、岡村靖幸になってやろうと思った。歌い方を真似て、話し方を真似て、ひいては踊り方さえ真似をしたほどだ。

1989年=バブル景気、そんな世間一般のイメージからこぼれ落ちるもの


「1989年」という西暦には、自動的に「バブル景気」という判が押される。すべての若者が、外車に乗って、六本木のディスコに行って、狂乱の日々を過ごしていたように語られる。そんな世間一般の「1989年」イメージから、ぽろぽろとこぼれ落ちるものがある。

それは例えば、「バブル景気」とやらには無縁で、どうにも要領がつかめない就職活動のストレスを晴らすべく、阿佐ヶ谷の下宿で岡村靖幸のダンスを練習する貧相な私の姿だし、「僕達は子供の育てられるような立派な大人になれんのかなあ?」とつぶやく、アルバム『靖幸』の #8=『Boys』の主人公の少年の姿だ。

昭和が終わり、平成が始まり、学生生活が終わろうとしているところに、岡村靖幸を繰り返し聴く生活が始まった。あれから、あのピンク色のCDを手にとってから、もう30年以上が経ってしまった。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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etc…

2020.02.01
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カタリベ
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