9月2日

EPICソニー名曲列伝:大沢誉志幸「ゴーゴーヘブン」洋楽臭と下世話臭の黄金比率

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EPICソニー名曲列伝 vol.19
大沢誉志幸『ゴーゴーヘブン』
作詞:銀色夏生
作曲:大沢誉志幸
編曲:安部隆雄
発売:1987年9月2日

初期の大沢誉志幸を代表するジャンプ・ナンバー


あけましておめでとうございます。この連載「EPICソニー名曲列伝」も、新年のタイミングで、最高にご機嫌なこのナンバーを紹介することが出来て、実に光栄だと思う。

「EPICソニーの名曲の中で、最も優れた曲は?」と聞かれたら、佐野元春『SOMEDAY』、渡辺美里『My Revolution』、今後紹介する岡村靖幸『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』あたりで悩むと思うが、「最も好きな曲は?」だったら、迷わずこの曲を推す。

それどころか、もし私が「EPICソニー名曲列伝」という名のコンピレーション・アルバムを選曲できるなら、絶対にこの曲を1曲目にするだろう。初期・大沢誉志幸を代表するジャンプ・ナンバー、『ゴーゴーヘブン』。

循環コードと自由なシャウト、鋭く光る銀色夏生の歌詞


1987年というと、小室哲哉×大村雅朗によるマスターピース=渡辺美里『My Revolution』が蹴り出した、メロディやコード進行が饒舌になる「Jポップ化」の流れが進む時期だが、この曲は、そんな流れに背を向けたような音である。

【C】→【E7】→【Am】 というやたらとシンプルな循環コードが、ひたすら繰り返されていくのだ。その循環コードに乗って、大沢誉志幸がとにかく自由にシャウトし続ける。このあたり、ソウルっぽいと言えばソウルっぽいのだが、「黒人音楽」というよりは、もう大沢誉志幸オリジナルの「大沢音楽」とでもいうべき風情(ふぜい)である。

シャウトした結果として、やや聴き取りにくいのだが、銀色夏生による歌詞は、また切っ先鋭く光っている。「ゴーゴーヘブン」という文字列が、彼女の中で1つのテーマとなっていたのか、このシングルがリリースされる直前の88年7月には、彼女による著書『Go Go Heavenの勇気』(角川文庫)が発売されていた。

いい女を寄せ付ける魅力、それは洋楽臭と下世話臭の黄金比率


さて。「コンサートにいい女がいちばん多く集まる音楽家は大沢誉志幸だ」という意味あいの文章が、当時『rockin’on』に書かれたことを憶えている。私には、80年代後半の大沢誉志幸を生で見る機会など無かったのだが、それでも「確かにそうかも知れない」と思ったものだ。

なぜかと言うと、当時の大沢誉志幸の音楽には、ハイセンスな洋楽(黒人音楽)らしさとともに、いい意味での下世話さも配合されており、結果、マニアック音楽のドツボにハマることなく、(当時風に言えば)「ワンレン・ボディコン」の「いい女」まで寄せ付ける魅力を併せ持っていたのである。

この曲などはまさにそうで、エンディングでスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ『Going to a Go-Go』が引用されるように、黒人音楽臭が強いものなのだが、それでも 【C】→【E7】→【Am】 と、循環コードの途中に、センチメンタルな響きの【E7】を置くことで、下世話臭、さらに言えば歌謡曲臭が付け加えられていて、ここらあたりがワンレン・ボディコン女子の好むところだったのだろう。

洋楽臭と下世話臭を黄金比率で配合すること。それが「大沢音楽」魅力の根本だったと思う。

だからこそ「デビュー前に100万枚売った男」になれた。だからこそ、傑作『そして僕は途方に暮れる』が生まれた。

そして、だからこそ―― 『ゴーゴーヘブン』というこの曲が、まだ大学2年生のスージー鈴木少年を首ったけにした。

音楽だけではない、ジャケットのアートワークも実に斬新!


最後に付け加えさせてほしい。この曲の魅力は、ここまで書いたように音楽的な話だけにとどまらない。シングルのジャケットもまた、実に素晴らしいのだ。赤いジャケットを着た大沢誉志幸が、ハンガーに引っ掛かって、とぼけた表情でうなだれている斬新なアートワーク。

これを見て、当時のワンレン・ボディコン女子は「キャー!誉志幸!」と歓喜したのだろう。そして、ワンレン・ボディコン女子とはまるで無縁な大学2年生の音楽好き少年は、同じく大沢誉志幸好きの友人を下宿に呼んで、『ゴーゴーヘブン』や前年発売の『クロール』というシングルを何度も聴きながら、このジャケットを見つめていた――。

黒人音楽でも歌謡曲でもない「大沢音楽」が日本を踊らせている。それは EPICソニーが日本を踊らせていることに他ならない。そんな「大沢音楽・無敵時代」は、大沢誉志幸 with Various Artists 名義のアルバム『Dance To Christmas』が発売される、翌88年11月まで続いていく。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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2020.01.03
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カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
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