9月2日

EPICソニー名曲列伝:大沢誉志幸「ゴーゴーヘブン」洋楽臭と下世話臭の黄金比率

36
1
 
 この日何の日? 
大沢誉志幸のシングル「ゴーゴーヘブン」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1987年のコラム 
8月29日はマイケル・ジャクソンの誕生日 -「バッド」こそ史上最大のポップアルバム!

コムデギャルソンとオノセイゲン、誰も聴いたことのない「ランウェイのための音楽」

カレッジチャートが生んだスター、R.E.M.はUSインディーの国宝級遺産

累計1,000万部超え、空前の大ベストセラー「ノルウェイの森」に思うこと

村上春樹のノルウェイの森を読み、ビートルズのノルウェーの森を聴いた夜

村上春樹の恋愛小説「ノルウェイの森」は ビートルズ「ホワイト・アルバム」からの影響?

もっとみる≫




EPICソニー名曲列伝 vol.19
大沢誉志幸『ゴーゴーヘブン』
作詞:銀色夏生
作曲:大沢誉志幸
編曲:安部隆雄
発売:1987年9月2日

初期の大沢誉志幸を代表するジャンプ・ナンバー


あけましておめでとうございます。この連載「EPICソニー名曲列伝」も、新年のタイミングで、最高にご機嫌なこのナンバーを紹介することが出来て、実に光栄だと思う。

「EPICソニーの名曲の中で、最も優れた曲は?」と聞かれたら、佐野元春『SOMEDAY』、渡辺美里『My Revolution』、今後紹介する岡村靖幸『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』あたりで悩むと思うが、「最も好きな曲は?」だったら、迷わずこの曲を推す。

それどころか、もし私が「EPICソニー名曲列伝」という名のコンピレーション・アルバムを選曲できるなら、絶対にこの曲を1曲目にするだろう。初期・大沢誉志幸を代表するジャンプ・ナンバー、『ゴーゴーヘブン』。

循環コードと自由なシャウト、鋭く光る銀色夏生の歌詞


1987年というと、小室哲哉×大村雅朗によるマスターピース=渡辺美里『My Revolution』が蹴り出した、メロディやコード進行が饒舌になる「Jポップ化」の流れが進む時期だが、この曲は、そんな流れに背を向けたような音である。

【C】→【E7】→【Am】 というやたらとシンプルな循環コードが、ひたすら繰り返されていくのだ。その循環コードに乗って、大沢誉志幸がとにかく自由にシャウトし続ける。このあたり、ソウルっぽいと言えばソウルっぽいのだが、「黒人音楽」というよりは、もう大沢誉志幸オリジナルの「大沢音楽」とでもいうべき風情(ふぜい)である。

シャウトした結果として、やや聴き取りにくいのだが、銀色夏生による歌詞は、また切っ先鋭く光っている。「ゴーゴーヘブン」という文字列が、彼女の中で1つのテーマとなっていたのか、このシングルがリリースされる直前の88年7月には、彼女による著書『Go Go Heavenの勇気』(角川文庫)が発売されていた。

いい女を寄せ付ける魅力、それは洋楽臭と下世話臭の黄金比率


さて。「コンサートにいい女がいちばん多く集まる音楽家は大沢誉志幸だ」という意味あいの文章が、当時『rockin’on』に書かれたことを憶えている。私には、80年代後半の大沢誉志幸を生で見る機会など無かったのだが、それでも「確かにそうかも知れない」と思ったものだ。

なぜかと言うと、当時の大沢誉志幸の音楽には、ハイセンスな洋楽(黒人音楽)らしさとともに、いい意味での下世話さも配合されており、結果、マニアック音楽のドツボにハマることなく、(当時風に言えば)「ワンレン・ボディコン」の「いい女」まで寄せ付ける魅力を併せ持っていたのである。

この曲などはまさにそうで、エンディングでスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ『Going to a Go-Go』が引用されるように、黒人音楽臭が強いものなのだが、それでも 【C】→【E7】→【Am】 と、循環コードの途中に、センチメンタルな響きの【E7】を置くことで、下世話臭、さらに言えば歌謡曲臭が付け加えられていて、ここらあたりがワンレン・ボディコン女子の好むところだったのだろう。

洋楽臭と下世話臭を黄金比率で配合すること。それが「大沢音楽」魅力の根本だったと思う。

だからこそ「デビュー前に100万枚売った男」になれた。だからこそ、傑作『そして僕は途方に暮れる』が生まれた。

そして、だからこそ―― 『ゴーゴーヘブン』というこの曲が、まだ大学2年生のスージー鈴木少年を首ったけにした。

音楽だけではない、ジャケットのアートワークも実に斬新!


最後に付け加えさせてほしい。この曲の魅力は、ここまで書いたように音楽的な話だけにとどまらない。シングルのジャケットもまた、実に素晴らしいのだ。赤いジャケットを着た大沢誉志幸が、ハンガーに引っ掛かって、とぼけた表情でうなだれている斬新なアートワーク。

これを見て、当時のワンレン・ボディコン女子は「キャー!誉志幸!」と歓喜したのだろう。そして、ワンレン・ボディコン女子とはまるで無縁な大学2年生の音楽好き少年は、同じく大沢誉志幸好きの友人を下宿に呼んで、『ゴーゴーヘブン』や前年発売の『クロール』というシングルを何度も聴きながら、このジャケットを見つめていた――。

黒人音楽でも歌謡曲でもない「大沢音楽」が日本を踊らせている。それは EPICソニーが日本を踊らせていることに他ならない。そんな「大沢音楽・無敵時代」は、大沢誉志幸 with Various Artists 名義のアルバム『Dance To Christmas』が発売される、翌88年11月まで続いていく。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

■ EPICソニー名曲列伝:鈴木聖美 with RATS & STAR「ロンリー・チャップリン」に仕掛けられた壁
■ EPICソニー名曲列伝:TM NETWORK「Get Wild」小室哲哉をブレイクさせた狭い音域の妙
■ EPICソニー名曲列伝:小比類巻かほる「Hold On Me」にみる二次元戦略とは?
etc…

2020.01.03
36
  Apple Music
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
コラムリスト≫
46
1
9
8
7
EPICソニー名曲列伝:小比類巻かほる「Hold On Me」にみる二次元戦略とは?
カタリベ / スージー鈴木
54
2
0
2
2
TM NETWORK がロックバンドである理由を知るためにはライブ音源を聴くべし!
カタリベ / 村上 あやの
85
2
0
2
1
40年振りの聖子ちゃんカット!松田聖子「青い珊瑚礁」あなたが好き!
カタリベ / 宮木 宣嗣
64
1
9
8
4
薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇” より」金属的な光沢の中に仄かなぬくもり
カタリベ / かじやん
70
1
9
8
3
田原俊彦「シャワーな気分」永遠のアイドル=マイケル・ジャクソンに近づいた名曲
カタリベ / 彩
31
1
9
8
4
小泉今日子「The Stardust Memory」高見沢俊彦の提供曲に坂崎幸之助も大喜び!
カタリベ / 長井 英治