11月19日

U2 が探し求めたロックンロール、そして「アクトン・ベイビー」で目指したもの

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1988年「魂の叫び」に帰結、ロックンロールのルーツを辿る巡礼の旅


80年代半ば以降のU2は、ロックンロールのルーツを辿る巡礼の旅を続けていた。アルバム『焔(Unforgettable Fire)』から始まったこの旅は、『ヨシュア・トゥリー』という傑作を生み出し、そのツアーからのライブ音源と新録曲を交えたドキュメンタリー映画のサントラ盤『魂の叫び(Rattle and Hum)』に帰結している。

この時期のU2、特にボノは、その言動や醸しだす雰囲気も含めて神々しさに溢れ、カリスマ的な存在感を放っていた。しかし、同時にこうしたカリスマ・イメージに対して「何か胡散臭くさくねぇ?」というツッコミの声も多く、もうU2は同時代を生きるリアルなロックバンドとしては終わってしまったという論調があったのも事実だ。正直なところ、私もどちらかと言うと、この論調に傾いており、もうちょっと若々しく生々しいロックを聴かせてくれないかなと感じていたのが正直な想いだった。

こうした中、U2は1991年にアルバム『アクトン・ベイビー』をリリースする。本作からのファーストシングル「ザ・フライ」を最初に聴いた時のことは、今でもハッキリと覚えている。当時の私は、名前も聞いたことのない英米のインディーバンドやUSカレッジシーンで盛り上がっているバンドの最新情報を入手するために渋谷陽一氏のラジオ番組を熱心に聞いていた。その番組でU2の新曲「ザ・フライ」がいち早く紹介されたのだ。

むさ苦しい印象を払拭、90年代モード全開の「アクトン・ベイビー」


実際にオンエアされた「ザ・フライ」を一聴して感じたことは、むさ苦しいU2の印象を払拭するのに充分すぎる90年代モードのサウンドで、特筆すべきは、マッドチェスターやセカンド・サマー・オブ・ラブ以降のビートを積極的に取り入れているところだった。このシングル「ザ・フライ」1曲でU2は私にとって何だか胡散臭いバンドからニューアルバムが待ち切れない期待のバンドへと一発逆転したのだ!

リリースされてすぐに入手したアルバム『アクトン・ベイビー』は、聴き応え充分の大傑作だった。「ザ・フライ」に代表される90年代モード全開のナンバーとルーツ巡礼の旅で培ったバラードやスケール感の大きいシンガロング系の曲までバラエティに富んでいるのに、とっ散らかった印象は全くない。むしろ、様々なタイプの曲が補完しあって、1枚のアルバムとして最後まで飽きることなく聴けるという素晴らしいアルバムだ。

『ヨシュア・トゥリー』のような神々しさではなく、4人組のロックバンドがここにいて、素晴しい楽曲を奇をてらわず演奏している。U2というロックバンドが僕らのもとに帰ってきたという印象で、それだけで何だか嬉しくなってしまったのだ。

自己変革を繰り返すタフなロックバンド、U2


U2は、この後『ZOOROPA』(1993年)、『ポップ』(1997年)とテクノロジーとダンスミュージックに傾倒した作品を発表していく。もう、ここまで来ると、巡礼の旅をしていたU2の印象はかなり薄くなってくる。ボノもライブのステージでは、“マクフィスト” という奇抜なキャラクターを演じ、どこまで本気でどこからが冗談なのか分からなくなっていく。

もちろん、見ているこちらにも、そのユーモアセンスや遊び心に安心感はある。さらにロックスターである自分自身を自虐的な笑いに転換するセンスからは、冷静に自分たちを俯瞰して捉える “知性” の高さすら感じることができる。自らをもロックンロール・サーカスの珍獣として自嘲的な笑いのネタにまで変換できる “大人の過激さ” を備えたU2こそ、90年代を生き抜くタフなロックバンドの姿なのだ。

ロックンロールの、そしてショービズの荒波に呑み込まれることなく息の長いアーティスト活動を続けるための第一歩を踏み出したバンドの姿が『アクトン・ベイビー』には刻み込まれている。

自らを笑い飛ばせるタフさと同時に等身大の自分たちを歌う実直さを身に付けたU2が記録された『アクトン・ベイビー』はバンドのキャリアの中でも重要な作品であり、今日までロックシーンのトップランナーとして走り続けるための新型エンジンを搭載した最初の作品であったのだ。そして、この先もU2は自己変革というモデルチェンジを繰り返し、ロックンロールという名もなき道を走り続けているのだ。


追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。


2020.12.09
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カタリベ
1972年生まれ
岡田浩史
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