1993年 9月22日

90年代の中森明菜、松本隆と小室哲哉が手掛けた「愛撫」の魅力と数奇な運命

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「愛撫」が収録された90年代中森明菜の意欲作『UNBALANCE +BALANCE』


「中森明菜の1番好きな楽曲はなんですか?」

―― こう聞かれたら、あなたはなんと答えますか? シングルだけでも50作以上をリリースしてきた彼女のキャリアの中で、数多くの大ヒット曲があります。そんな中、90年代に発表された人気の1曲があります。

その曲は、1993年に発表された「愛撫」です。

「愛撫」は1993年9月22日、MCAビクター移籍第一弾アルバム『UNBALANCE +BALANCE』に収録された1曲でした。アルバムは、前作『CRUISE』から実に4年ぶりに発売された、全9曲の43分。全曲ノンタイアップで構成された1枚です。

エグゼクティブプロデューサーに川原伸司を迎え、(『川原伸司インタビュー ④ ゴールデンボイスの松田聖子と絶望を歌える中森明菜』参照)、ラテン、フラメンコ調の楽曲を中心に、バラードから爽やかなポップス、さらには讃美歌まで展開された作品です。

先行シングルで収録された坂本龍一による「NOT CRAZY TO ME」でも感じられる「ニューヨークのクラブサウンド」、さらに「YOU ARE EVERYTHING」ではラップのコーラスで始まる楽曲など、アルバムの制作時期を考えると、大ブレイク中のMariah Carey 、Boyz II MenのようなスイートなR&Bや、ヒップホップを取り入れたEn Vogueあたりをイメージしているようにも感じます。

当時のトレンドを積極的に取り入れながら、全ての楽曲の歌い方を変えて、9つの物語のストーリーテラーになった意欲作でした。

オープニングナンバーの愛されたいと命を懸けた主人公を7分のバラードで歌う「永遠の扉」に続き、シンセの音色から始まる2曲目に配置されていたのが「愛撫」でした。

「愛撫」を作った小室哲哉と松本隆


作詞:松本隆 作曲・編曲小室哲哉によって生み出された「愛撫」。今となれば人気になって当たり前なのでは? と思う人も当然いると思いますが、当時の状況を少しだけ整理してみましょう。

「レコード大賞に似合う楽曲ですよね」

後にインタビューで、この曲を語った小室哲哉。1993年の小室哲哉はまだ “TMの人” でした。TRFプロデュース直後のことで、まさか彼らが2年後にレコード大賞を獲ることは100%誰も想像できない時期の楽曲依頼。小室哲哉が書くから売れる保証はなかったタイミングでした。

松本隆も、シンガーソングライターの隆盛や、バンドブームや渋谷系など一気に多くのジャンルが街に溢れるようになったのと時を同じくして1989年からの “休憩” を取っていた時期でもありました。

松本隆 小室哲哉というコンビでの楽曲は80年代には中山美穂、松田聖子などに提供。数々の名曲が生み出されていました。そして、90年代に入り、中森明菜の音楽シーンへの復帰作への楽曲依頼。これこそ作家冥利に尽きるものであったことは間違いありません。だからこそ、本気で向き合っていったのだと思います。

「愛撫」は“5分間の濃密なメロドラマ”


「愛撫」を唄う彼女は、出だしから非常に辛そうな表情を浮かべます。そして、松本隆の描く愛情の炎を燃やす主人公を、淡々と抑え気味に歌い始めます。

高音で歌えそうな箇所でも、延々と低音で攻めてくる歌唱法は発声も難しいのでしょう。毎回テレビパフォーマンスの最後には肩で息をするほどでした。その全身全霊で歌う歌声に心を奪われました。小室メロディーに独特の振りをつけながら、観るもの、聴くものを虜にするかの如く恍惚の表情を浮かべながら唄う姿に、釘付けになった方も多かったのではないでしょうか? 歌い込めば歌うほどに「愛撫」を自分の色に染めていきました。

「愛撫」のパフォーマンスは1995年に出演した『夜のヒットスタジオ』で一つの完成形を見せます。小室哲哉がシンセを叩く前で真っ黒なドレスで今までの集大成とも言えるほどキレキレに踊る彼女が美しい。

歌唱も喉の調子が良いのか伸びも張りもあり、小室哲哉のコーラスとまるでバトルを繰り広げられたかのような5分間は濃密なメロドラマを観る感覚に似ていました。

数奇な運命を辿る「愛撫」


テレビなどの歌唱により、ノンタイアップのアルバム曲であった「愛撫」は有線からも火が付き、アルバムのリリースから、僅かひと月で有線チャートの3位を記録。

アルバム発売の半年後1994年3月24日には、カバーアルバム『歌姫』からのシングルカット「片想い」の両A面の扱いでシングル化されました。

「片想い / 愛撫」―― 最高位:17位、登場週:8週、売上枚数:13.4万枚
『UNBALANCE +BALANCE』―― 最高位:4位、登場週:9週、売上枚数:18.7万枚

しかし、人気や知名度を考えると、正直「え?これだけしか売れてなかったの?」と驚くセールス結果になった1曲でもありました。憶測に過ぎませんが、スタッフ側も、明菜本人も「愛撫」に対しては、じわじわと浸透させていきたいという考えだったのかもしれません。

しかし、世間は中森明菜の復活と、楽曲の持つパワーに、出合頭に魅了されてしまいます。

もし、アルバムと同時発売として「愛撫 / NORMA JEAN」というシングルを発表していれば、年末の賞レースにも絡み、紅白の出場の可能性も考えられたのでは無いでしょうか。

「愛撫」という、たった1曲のリリースタイミングによっては、その後の「中森明菜」の歩みが変わっていたかもしれません。



聴く人に驚きと興奮を与え続ける歌姫


「今までの歌手・中森明菜のイメージ」と「新しいことに挑むアーティスト・中森明菜」のバランス感覚を常に意識してきた中森明菜。

まさしく“アンバランスバランス” な感覚は90年代以降の作品のテーマとも言えます。

私が中森明菜のファンで居続けるのは「次はどんな中森明菜で登場するんだろうか?」という期待感でワクワクさせられるからです。

多分、「愛撫」を最初に聴いた時の「コレが中森明菜!待ってました!」という出会いを経験したからかもしれません。

中森明菜本人から「引退」という言葉が出ない限り、ずっと“NEW AKINA”を待ち続けています。

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2022.09.22
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カタリベ
1975年生まれ
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