ファーストアルバム「Natural」をジャケ買い
ある日、スマホをスクロールしていたら「VOICEが30周年」という文字が流れてきた。
VOICE…! 速攻で脳内に「24時間の神話」と「STAY〜あなたの声が聴きたい」の繊細で美しいハーモニーが流れてきた。ああ、何度も何度も聴いた大好きな歌である。同時に、アルバムのジャケット写真も目に浮かぶ。
そうか、もう彼らとCDショップで出会って、30年になるのか――。
VOICEとの出会いは、『Natural』というファーストアルバムである。もっと言えば、アルバムのジャケット。ふんわりとパステル調で描かれた、茜色とオレンジのグラデーションに浮かぶギターのイラスト。これがなんとも詩的で、ジャケ買いしたのだった。
しかし、ジャケ写買いというのは約3,000円のギャンブル。外れたらもうオブジェとして飾るしかない。だからこそ、1曲目の「ベルが鳴るように」がかかった瞬間、大感動した。CDプレーヤーの再生ボタンを押した瞬間――
ベルが鳴るように
といきなり、鮮やかに飛び出してきた2人のハーモニー!! それがもう美しくてうれしくて、ガッツリ心を掴まれてしまった。
しかもこのアルバム、ほぼ全曲が名曲。デビューシングルにして大ヒットした「24時間の神話」やセカンドシングル「泣きながらKissして」ももちろんいいのだが、ラストの曲「はじまりはALONE」はまるでむせび泣きや溜息が歌になっている感じの破壊力。センチメンタルのもうひとつ向こう側、静かな陶酔を感じる、お気に入りの1枚となった。
「声を聞きたい」電話の向こう側
セカンドアルバムの「Blue」も、何羽もの鳥が浮かび上がり、高い空を目指すようなイラストジャケットがとてもきれいだ。収録曲は明るく爽やかな曲も多いのだけど、メランコリック密度が高くて、彼らのハーモニーは、やっぱり泣いているようだと思った。
特に、受話器越しの涙というか、電話文化のもどかしさ、やるせなさといった距離感がふわりと思い出されるのである。メールやメッセージではなく、声を届けることこそ、気持ちを届ける一番の手段だった時代。そこから生まれるすれ違いと、執着。サードシングル「STAY〜あなたの声が聞きたい」はまさに、好きな人の声が聞きたくてジーッと受話器を見つめてしまう、あのたまらない感覚がありありとイメージできて、胸を押さえてしまうくらいせつない。
この歌がリリースされたころ(1994年)はもう携帯電話も一応普及していたけれど、VOICEの歌のイメージは、やっぱり固定電話の重み。ちなみに、「STAY〜あなたの声が聞きたい」の独特なドラマチックな世界観、編曲は誰だろうと調べてみたら、服部隆之さんだった。びっくり!
さりげなく心に棲みつくVOICE
「24時間の神話」「STAY〜あなたの声が聞きたい」は、多くの人にカバーされている。私はリュ・シオンさんバージョンの「24時間の神話」を聴いたことがあるが、独特の哀しさに溢れていて、こちらもすてきだった。
カラオケでこの歌が入り、タイトルが画面に映し出された瞬間「キタ名曲…!」とざわつく、という現場にも遭遇したことがある。そんな風に、ビッグヒットではないけれど、誰の心にもそっと棲み続けているような楽曲がVOICEは本当に多い。
そんな彼らがもう30周年。しみじみ思いながら公式サイトに行き、初めて彼らのプロフィールを知った。
北海道出身の、別所秀彦さん、別所芳彦さん。双子だったのか…! なるほどあの半端ない声の重なりに納得である。
逆に言えば、私はあれだけVOICEの歌を繰り返し聴いていたにもかかわらず、彼らの何も知らないままだった。ただただ美しいハーモニーだけを記憶していたのである。
「どんな人が歌っているのかな」と気にならなかったはずはないのだ。なのだけれど、2人の声と言葉ひとつひとつが胸に落ちて、ジャケットの美しい絵を眺めながら、別世界に飛んでいくのが先になっていた。ずっと!
彼らは、私のなかで本当にやさしい「VOICE(声の人)」だったのだ。
そして今、30周年の記事を機にまたアルバムを聴き直している。最近の配信曲もチェックしたが、素晴らしいハーモニーは健在だ。しかも、ファンの方の書き込みを見ると、ライブMCがむちゃくちゃ面白いらしい。なんだか嬉しくなってきてしまう。
これからも、その涙を思わせる2人の声で、小さな幸せやせつなさ、日常という終わらないドラマを歌ってくれたらいいな、と思うのだ。
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2023.10.17