プリンスの初来日公演は1986年9月。『パープル・レイン』(’84年)ツアーではなく、『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』(’85年)の後にはツアーが無く、この年発表の『パレード』を受けてのツアーであったが、クリエイティビティ的には引き続きピークの中での来日だった。
よって人気もまだまだ凄く、朝刊で新聞発表を見て友人にプロモーターに整理券を取りに行ってもらったのだが、結果は横浜スタジアムのスタンド、それも18列めだった。
横スタ2デイズの初日9月8日(月)、前座のシーラ・Eはやはりスタンドからは小さく見えた。35分の休憩が入る。ここで奇跡が起こった。僕と友人の所に女性が2人やって来て、アリーナの後方だとステージが全く見えないので席を交換して欲しいというのだ。なぜスタンドの最前列ではなく中程の僕らに? そんな野暮なことを聞く間も惜しんで僕らはアリーナに降り立った。オレたち “わらしべ長者!?” 53列めと後ろも後ろだったが、プリンスをアリーナで観られるのだ!
18時55分、前作のタイトル曲「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」でライブは幕を開けた。が、実際には曲が始まっても幕は閉じたままでプリンスの姿は見えなかった。これがまた場内の興奮をいやが上にも高めた。2コーラスめになっても幕が開かずこの曲はこのままなのかと思った矢先、間奏に突入すると同時に幕が開き、『パレード』のジャケットと同じコスチュームのプリンスがシャウトと共に現れ、軽快なダンスを見せた。
その瞬間、総立ちだった周りの観客は皆歓声を上げながら椅子の上に立ったのである。アリーナ後方でただでもステージが見辛く、この席を譲ってくれた女性達の気持ちがよく分かったのだが、いよいよ何も見えなくなってしまい僕らも椅子の上に立たざるを得なかった。曲は『パレード』のオープニングナンバー「クリストファー・トレイシーのパレード」そして「ニュー・ポジション」とメドレーで続いたが、この間皆椅子の上に立ち続け、足許が不安定な中身体を揺らし声を上げた。
続くスローな「アイ・ワンダー・ユー」で漸く係員に制され皆椅子から降りたのだが、後にも先にもこんなに混沌としたオープニングは無かった。このライブが歴史的なものになるのはこの時既に約束されていたのである。もちろん、風吹く中でプリンスがギターをかき鳴らした最後の曲「パープル・レイン」も、多くの人が語るように30年経った今でも鮮明に覚えている。
僕らは間違い無く歴史を目撃したのだ。そして翌9日のコンサートは、奇しくもザ・レヴォリューション最後のコンサートとなっている。伝説は完成した。
2016.09.08
YouTube / Prince
Information