チェッカーズは紛れもないロックンローラー
1983年に「ギザギザハートの子守歌」でデビューし、「涙のリクエスト」で大ブレイクを果たしたチェッカーズ。
総合プロデューサーに秋山道男を迎えてお茶の間を席捲していったが、僕には彼らが、キャロルやクールスを通過し、シャネルズや原宿のロカビリーレジェンド、ブラック・キャッツと極めて出自が近いというか、同じ根っこを持ったバンドだというのがなんとなく分かった。
アマチュア時代のトレードマークだったリーゼントを下し、アシンメトリーなニューウェイヴ風味のヘアスタイルと、チェックの衣装を身に纏っていても隠し切れない不良の匂いというか、街の片隅のダンスパーティで、得意のドゥーワップのコーラスに磨きをかけてコンテストを勝ち抜いてきたストリート上がりという匂いは隠し切れなかった。それが顕著に表れていたのが、「涙のリクエスト」のイントロのクロベエ(徳永善也)のドラミングだった。
かつて、RCサクセションのギタリストだった仲井戸麗市が、ビートルズ来日公演のリンゴ・スターのドラミングについてこんな風に言っていた。
「リンゴの「アイ・フィール・ファイン」のバスドラの踏み方を鮮明に覚えている。今も確かに覚えている。バツグンだった。本物だった」
「涙のリクエスト」のクロベエのバスドラの踏み込み方もこれと同じように、聴いた瞬間、一気に曲の世界観に吸い込まれるような感覚に陥った。それは本物のドラミングだった。紛れもないロックンローラーだった。
アルバム「絶対チェッカーズ!!」に凝縮されていた夏
そんな不良少年たちが彩っていった “夏” は別格のもので、高揚感、切なさ、愛おしさ、そして胸に微かに残るヒリヒリとした痛み… といったティーンエイジャーが経験するひと夏のすべてがファーストアルバム『絶対チェッカーズ!!』に凝縮されていた。
それはもう、一夜の出来事で、若さの終わり、美しかった季節の終焉、さらには古き良きアメリカの終焉を描いた傑作映画『アメリカン・グラフィティ』を思わせるようなメモリアルな作品だったと言えよう。
バンドの成熟期にはまだまだ遠かったが、デビュー間もないチェッカーズが、それまでの地元久留米ですごしたアマチュア時代のメモリーが凝縮されているように思えたし、彼らの青春には、常に傍らにロックンロールがあったことが分かる―― そんな煌めきが内包されていた。
このファーストアルバムの中でも別格なのは藤井郁弥がリリックを紡いだ「渚のdance hall」だ。
好きだったネ「タミー」
できすぎだよ
Thank you D.J.
思い出をたどりながら あの日のStep
シャツにルージュ残るほどに
寄り添っておくれ
涙隠したいから
歌詞の中の「タミー」とは、アメグラと同じく古き良きアメリカを背景とした映画『グローイング・アップ2 ゴーイング・ステディ』のサウンドトラックにも収録された珠玉のオールディーズナンバーで、1957年デビー・レイノルズがリリースした「タミー」のことだということはすぐに分かった。つまりこれは、彼らの久留米時代の青春がインスパイアされている曲ではないかと思い、同じようにアメリカの1950年代に憧れオールディーズナンバーをピカピカの新譜のように心ときめかせながら聴いていた自分にはチェッカーズが極めて身近な存在に思えたものだ。
「星屑のステージ」は、渚のdance hallのアンサーソング?
この『絶対チェッカーズ!!』は1984年の7月21日にリリースされている。つまり僕の16歳の夏休みの始まりの日だった。自室のステレオで、ビーチのラジカセで、このアルバムを聴きまくりながら謳歌した夏が終わるころ、彼らの新しいシングルが届いた。同年8月23日にリリースされた「星屑のステージ」だ。この曲を聴いた瞬間、これは、「渚のdance hall」の続編ではないかと思った。
胸に頬をうずめ 泣いていたね あの日
星空から ささやくひと
Cry cry crying… 帰らない
この「あの日」というのは、シャツにルージュ残るほど寄り添った「渚のdance hall」での出来事だったと思わずにいられなかった。作詞を担当しした売野雅勇先生が、「渚のdance hall」のアンサーソングとしてこの曲を書いたとは思えないが、そんな匂いを漂わせる偶然性が当時のチェッカーズの魅力でもあった。
つまり、初期チェッカーズ一連のヒット曲のソングライティングを担った売野雅勇、芹沢廣明コンビは、久留米の不良少年時代というバックボーンを大切にしながら、どのように大衆に響かせるか… を念頭に楽曲を手掛けていたと思う。だからこそメンバー各々のキャラクターとシンクロしながらチェッカーズはスターダムへと駈け上っていったと思う。
チェッカーズの初々しくも切ない青春時代の終止符
この「星屑のステージ」がヒットチャートを上昇し、テレビから頻繁に流れるようになった秋の始まりに、『絶対チェッカーズ!!』がいつも傍らで鳴り響いていた16歳の夏が終わることを否が応でも感じずにいられなかった。
…あの頃のように
星屑のStage 涙をしきつめて
約束だね この歌 俺
Cry cry crying 歌うよ
というドラマチックな歌詞の中で紡ぎ出される世界観も彼らのアマチュア時代ではなく、サクセスを手に入れた現在から、忘れがたい愛すべき青春期に想いを馳せながら歌われているんだと当時強く感じたものだ。
それに加え、「想い出は夏のまま時を止めたね」というワンフレーズがより強く夏(青春)の終わりであるという実感を心に刻ませた。そして、この時期チェッカーズは、この曲を挟んだ「哀しくてジェラシー」、「ジュリアに傷心」という哀愁三部作(僕が勝手にそう呼んでいる)で本格的な国民的なスターとなっていった。
ストリート上がりの不良少年たちが、より遠い存在になっていく…。嬉しさの反面、一抹の寂しさを感じたことも確かなことだった。しかし、チェッカーズは、翌年の「俺たちのロカビリーナイト」で精神性を回帰した。そしてメンバーたちがソングライティングを手掛けるようになった1986年の「NANA」以降、ビートルズのように、自分たちの身の回りに溢れる多様な音楽を吸収し、確固たるオリジナリティの中、本格的なロックバンドへと昇華。自らの力で自分たちの道を切り拓いていった。
「星屑のステージ」は、彼らの初々しくも切ない青春時代の終止符、夏の終わりに最もふさわしい楽曲だとも思ったりもする。
特集 夏の終わり -Growing up-
2021.08.25