6月27日

中森明菜「トワイライト」人々の記憶から薄れていった来生姉弟のスローバラード

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中森明菜のシングル「トワイライト ―夕暮れ便り―」がザ・トップテンの1位になった日
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アンダースローのピッチャーと “頭サビ” ポップスの関係?


このごろ、プロ野球でアンダースローの投手をあまり見かけなくなった。

思えば、僕らアラフィフが子供時分に熱中した70年代から80年代のプロ野球は、アンダースローの投手が各球団に大抵1人か2人はいて、先発ローテーションで活躍していた気がする。阪急の二本柱・足立光宏と山田久志を始め、日本ハムの高橋直樹、広島から南海に移籍した金城基泰、巨人から阪神に移籍した小林繁、西武の永射保と松沼兄こと松沼雅之、ロッテの仁科時成―― そして、漫画『ドカベン』の里中智――etc.

それが近年は、思い当たるアンダースロー投手と言えば、千葉ロッテにいた “ミスターサブマリン” こと渡辺俊介と、東北楽天の牧田和久、それに昨年の新人王、ソフトバンクの高橋礼くらいか。

なぜ、アンダースローが衰退したのかは諸説ある。まぁ、ざっくり言えば、80年代後半以降、日本の野球がパワーベースボールになったからだろう。技巧どうこうより、パワーとスピードでドカンと。良く言えばダイナミックに、悪く言えば大味な野球に――。

同様に、70~80年代の歌謡曲やポップスには、俗に “頭サビ” と言われる楽曲が結構あった。頭サビとは、いきなりサビから始まる楽曲のこと。ほら、山口百恵の「青い果実」とか、岩崎宏美の「ロマンス」とか、中島みゆきの「時代」とか、松田聖子の「青い珊瑚礁」とか――。どの歌手も大抵、シングル4、5曲に1曲は頭サビの楽曲だったと思う。それが近年は、あまり頭サビの楽曲を見かけない、いや、聴かない気がする。

これについても原因は諸説あると思うが、個人的にはメロディの枯渇が影響しているように思う。そもそも “頭サビ” とは、キャッチーなサビあってのもの。メロディがなければ、そもそも頭サビもないだろう。

なぜ―― こんな話をクドクドしているのかと言えば、僕はアンダースローと頭サビの楽曲が、三度のメシより好きなのだ。そして、今日取り上げるあの曲も――。今から37年前の今日、1983年6月27日の日本テレビ系の『ザ・トップテン』の第1位に輝いた、中森明菜の「トワイライト ―夕暮れ便り―」である。

来生姉弟が手掛けた3作目のシングル「トワイライト ―夕暮れ便り―」


 こめかみには 夕陽のうず
 てりかえす海 太陽にそまる
 日傘の下 目を細めて
 あおいだ景色 あなたにも見せたい

作詞:来生えつこ / 作曲:来生たかお―― ご存知、明菜のデビューシングル「スローモーション」やサードシングル「セカンド・ラブ」のコンビだ。誤解している人も多いが、夫婦ではない。姉弟である。

初期の明菜のシングルが、1曲ごとにスローバラードとアップテンポを交互に出すことで、聴き手を飽きさせない戦略のもとにリリースされたのは有名な話である。事実、当初セカンドシングルの予定だった「あなたのポートレート」は「少女A」に変更され、オリコン最高5位と、デビュー曲の出遅れを挽回した。

だが、このブレイクしたツッパリ路線を続けず、再び、来生姉弟コンビに戻すのが、チーム明菜の有能なところ。続く「セカンド・ラブ」は念願のオリコン1位を獲得し、『ザ・ベストテン』でも8週連続1位を記録。もはや82年組どころか、一躍、松田聖子を脅かすトップアイドルに躍り出る。ちなみに、同曲は今もって明菜のシングル歴代最高セールスである。

そして、4枚目のシングル「1⁄2の神話」が、再び「少女A」の売野雅勇が作詞、ソロデビュー前の大沢誉志幸が作曲を担当し、アップテンポなロック調の楽曲に仕上がる。さらに、これまた『ザ・ベストテン』で7週連続1位と大ヒット。一方、トップを走る聖子は、この時期「秘密の花園」で9作連続オリコン1位の新記録を樹立するも、セールスはデビュー曲に次ぐワーストへと沈む。

そう、この時点で、勢いは完全に明菜のほうにあった。構図としては、アイドル・聖子に対して、ロック・明菜という対立軸が鮮明になった。新しもの好きのマスコミは明菜ブームを煽り、もはやその人気はアイドルの世界をはみ出し、社会現象化していた。

―― これが、明菜の5枚目のシングル「トワイライト ―夕暮れ便り―」の前日譚である。

抜群の中森明菜ワールド、憂いのある表情、無造作なポニーテール…


想像するに、当時の来生姉弟のプレッシャーは相当なものだったろう。順番から行けば、次の5枚目のシングルは、“奇数組” の自分たちの番だ。だが、アイドルらしからぬ過激な詞とロック調のサウンドで、評論家ウケしやすい “偶数組” と比べて、どうしてもスローバラードはインパクトで劣る。純粋にメロディで勝負するしかなく、プレッシャーは半端ない。正直、「セカンド・ラブ」のような超・名曲は、そうそう作れるものではない――。

だが、そんな作り手の苦悩など、ファンは知る由もない。僕もその一人だった。当然、次は来生姉弟でくると見ており、来生メロディファンとしては、楽しみでしかなかった。個人的には、「1⁄2の神話」は過大評価だと思っていたので、早くスローバラード路線に戻ってほしかった。

その日がやってきた。時に1983年6月16日―― 『ザ・ベストテン』の9位に、「トワイライト ―夕暮れ便り―」が初ランクインしたのである。短めの前奏はすぐにトップモードに達し、歌が始まった。そう、先に歌詞を記した “頭サビ” である。この瞬間、僕が心を鷲摑みされたのは言うまでもない。

――「いい曲じゃん!」

それは、僕が期待した通りの来生メロディだった。しかも、大好きな “頭サビ” だ。あっという間に曲の世界観が作られ、歌う明菜は詞の中のヒロインになった。憂いのある表情が抜群にいい。

 絵はがきを 一枚だけ
 さりげなく あなたへ出す
 元気です 一行だけ
 したためて ポストへ落とす

また、この曲を歌う明菜の髪型も最高だった。ブロウしたロングヘアを無造作に高い位置でポニーテール。これがまた似合う。同曲のレコードジャケットも同じ髪型だが、個人的には明菜の全シングル中、一番可愛いと思う。ついでに言えば、『ひょうきんベストテン』でも、同曲を歌う可愛かずみサンは同じ髪型をしていたが、これまた抜群に可愛かった。

僕は「トワイライト」が大好きになった。「スローモーション」「あなたのポートレート」「セカンド・ラブ」の一連の来生楽曲に勝るとも劣らないクオリティだと確信した。実際、6月27日には『ザ・トップテン』で1位に、同じ週の30日には『ザ・ベストテン』でも1位に輝いた。

だが―― そんな僕の期待に反して、同曲は早くも陰りを見せる。

チャートはレッドオーシャン、薬師丸ひろ子や原田知世の強力布陣


 やはりあなたと 一緒にいたい
 ひとこと 書きあぐね

両番組とも、2週連続1位のあと、2位に後退する。替わって1位に立ったのが、薬師丸ひろ子の主演映画の主題歌「探偵物語」だった。作詞・松本隆、作曲・大瀧詠一。前作「セーラー服と機関銃」から1年半ぶりのリリースで、作家陣も豪華。クオリティも最高。いくら明菜でも、相手が悪かった。

不運は続く。その「探偵物語」の背後に控えていたのが、同時上映の主題歌―― 原田知世の「時をかける少女」だった。作詞作曲・松任谷由実。言わずと知れたメロディの女王だ。こちらもクオリティは申し分ない。ジワジワとランクを上げてきた。

「トワイライト」は後退した。角川娘2人がかりと来れば、ひとたまりもない。同曲はやがてランク外へと消え、人々の記憶から急速に薄れていった。そして―― 次の奇数、7枚目のシングルは、作詞・康珍化、作曲・林哲司の「北ウイング」が選ばれた。作家陣は、明菜自らの指名だったという。

 感じますか 届きますか
 このたそがれと 恋ごころまでも
 まぶしいほど 苦しいほど
 あなたへの愛 迷わない 今なら

以後、明菜のシングルに来生楽曲が登場することはなかった。敬遠された? ―― いや、あえてフォローしたい。かつて明菜は『ザ・ベストテン』に出演した際、“「少女A」よりも「スローモーション」の方が好き” と答え、また「セカンド・ラブ」を提供された際も、“繊細な歌詞とメロディに心を揺さぶられた” と証言している。本音では、ツッパリ路線よりも、メロディアスな来生姉弟のスローバラード路線の方が好きだったのではないか。

現に、デビューからさかのぼること10ヶ月前、日本テレビ系の『スター誕生!』に明菜が出演して、同番組史上最高得点で合格した際に歌ったのも、山口百恵のツッパリ路線の楽曲「プレイバックPART2」ではなく、明るくメロディアスな「夢先案内人」だったのである。


※ 指南役の連載「黄金の6年間」
1978年から1983年までの「東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代」に光を当て、個々の事例を掘り下げつつ、その理由を紐解いていく大好評シリーズ。

■ さとう宗幸と黄金の6年間、運命のミリオンセラー「青葉城恋唄」ヒットの軌跡
■ 究極のアップデート “1983年の松田聖子” を超えるアイドルは存在しない!
■ 黄金の6年間:映画「エーゲ海に捧ぐ」シルクロードブームの源流を辿る道…
etc…


2020.06.27
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カタリベ
1967年生まれ
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