2016年7月20日、小林麻美さんがファッション誌「ku:nel」9月号の表紙を飾り芸能界復帰を果たした。80年代に青春を過ごした世代にとって、小林麻美という女性はやはり特別な存在である。
「哀しみのスパイ」のプロモーションビデオでは、女スパイを演じているが、このときの儚げでミステリアスな印象のまま、突然の引退。あの当時「理想の女性は?」と聞かれ小林麻美と答えていた男たちの喪失感は、先だっての福山ロスで女性たちが受けた喪失感とまったく変わらない一大事であった。
そして今回の復帰。一言、彼女はすっかり変わっていた。これが自分自身の感想である。世間は変わらぬ姿で現れたと書き立てる。それはある意味では間違っていないが、まったく見当違いであったりする。
ひとつ。変わらなかったのはスレンダーなボディラインと美貌。ふたつ。女神のオーラ。世の中の美しい洋服たちがこぞって「麻美、私を美しく着てみせて!」と押し掛けてきそうな洗練された雰囲気。たしかに何も変わっていない。奇跡のミューズである。
しかし、変わったこともある。それは、彼女自身が意思を強く発信し始めこと。これから残りの時間を自分が好きなこと、ファッションに関わって生きていこうという意思表示。
「やっぱり洋服が好き」
ファッションに対する情熱を語りイヴ・サンローランをまとった姿は、僕たちが知っていたちょっと影のあるミステリアスな女性ではなく、人生を謳歌して明るくやさしく微笑む女性であった。25年ぶりに現れた女神は新たなステージへ。誌面の写真を通しても尚、メディアというフィルターを越えて内面から自然に溢れだす熟成した美しさと強い想いをみせてくれた。そして、気が付かされる… 結局、僕たちは彼女のことを何ひとつ知らずにいたということを。
私を知らないと云って あなたを知らないと云うわ
つめたくそらした瞳が 哀しければいい
女スパイの哀しい恋の歌を聴きながら、今、そんな想いに浸っている。
哀しみのスパイ / 小林麻美
作詞:松任谷由実
作曲:玉置浩二
編曲:武部聡志
発売日:1984年(昭和59年)8月25日
2016.08.22
YouTube / Gusta Desu
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