2003年 4月23日

ヴォーカリスト・小泉今日子の魅力を再確認!自然体でリアルなアルバム「厚木 I.C.」

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アイドルの可能性を切り拓いたパイオニア・小泉今日子


『厚木I.C.』は小泉今日子が2003年に発表したアルバム。“厚木I.C” とは東名高速道路と小田原厚木道路との連結ポイントでもあるインターチェンジのこと。ちなみに神奈川県厚木市は小泉今日子の出身地た。

小泉今日子といえば、やはり80年代を代表するアイドルのひとりというイメージが強いけれど、同時に “アイドル=可愛さを売りにする” というイメージを覆して、アイドルのより広い可能性を切り拓いたパイオニアでもあった。

とくに80年代後期からは自分でも作詞を手掛けるようになるとともに、作家陣にも藤原ヒロシ、屋敷豪太、大澤誉志幸、鈴木祥子、奥田民生など、音楽シーンにおいても鋭角的な姿勢をもったアーティストを積極的に起用して、その音楽性を広げていった。

自分の音楽への挑戦のひとつの区切り? アルバム「厚木I.C.」


大雑把な印象だけれど、この時期以降の小泉今日子は、積極的に個性的アーティストの刺激を受けて音楽的意欲を満たそうとすると同時に、自分の音楽表現の可能性を確かめようとしているように感じ取れた。

けれど、それはけっして小泉今日子がアイドルからアーティストに変身しようとしているのではなく、あくまでも自分ならではの表現、自分はどんな発信ができるのか、という課題にトライしていたんじゃないかと思う。そして、彼女はだいぶ初期からそうした意識を持ち続けていたんじゃないか… とも思う。

そして、そんな自分の音楽への挑戦のひとつの区切りとなった作品が『厚木I.C.』なんじゃないかという気がする。

『厚木I.C.』はフルアルバムとしては『オトコのコ オンナのコ』(1996年)以来6年ぶりの作品だ。ちなみに『オトコのコ オンナのコ』はプロデューサーに菅野よう子を迎えて制作されたアダルティ・ポップ・アルバム。すべての歌詞を小泉今日子が手掛け、作曲は大半が菅野よう子だが、他に森若香織(元GO-BANDS)、北川リュンヌと鴨志田琢(マレフィス)、サンプリー・レッドというかなりマニアックな作家陣も起用され、ファンタジックでコンテンポラリーな世界観の作品となっている。また、アルバムタイトル曲でシングルとしてもリリースされた「オトコのコ オンナのコ」は奥田民生が作曲している。

記録上『厚木I.C.』は『オトコのコ オンナのコ』に続くフルアルバムになるが、実際にはこの間にミニアルバムという形で何作かリリースされているし、さすがに6年後の作品ということで、あまり前作と比較してみても意味は無いという気がする。けれど、前作ですべての歌詞を手掛けた小泉今日子が、このアルバムではソングライティングには一切かかわらず、シンガーに徹しているというのは、やはり彼女にとってのこのアルバムの意味が、前作とは大きく変わったということなのだろうと思う。

聴いて感じる“自然体の小泉今日子” 高野寛が果たした役割


『厚木I.C.』では、高野寛が『オトコのコ オンナのコ』での菅野よう子に近いスタンスでアルバムに関わっている。しかし自分で提供した楽曲は1曲のみで、作家としてよりも編曲などのサウンド面での世界観づくりに集中しているという印象がある。

このアルバムの作家陣の中心となっているのはTHE BOOMの宮沢和史。この他には浜崎貴司(FLYING KIDS)、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、永積タカシ(ハナレグミ)、BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)といった顔ぶれが楽曲を提供している。

こうしたラインナップを見ていくと、『オトコのコ オンナのコ』とはまた違う角度からの尖り方をした作品なのかと想像してしまうけれど、実際に聴いてなにより強く感じるのが “自然体の小泉今日子” だ。

たとえば1曲目の「厚木」(作詞:浜崎貴司、作曲:宮沢和史)。エレクトリックピアノのムーディでジャジーなイントロから一転して軽快なラテンサウンドにのせた小泉今日子の軽やかな歌声が流れだす。確かに小泉今日子の歌なのだけれど、なんのリキミもない軽やかな声には、ちょっと構えていたことらの気分をスッとほぐすようなナチュラルなグルーヴにあふれている。そして、そんな優しいそよ風のような空気感がアルバム全体をふわりと包み込んでいるのだ。

それは、サルサ、ボサノヴァなどのアーシーでいながら洗練されたラテンリズムを主体に、生楽器を中心にナチュラルで快適なサウンドでアルバム全体を仕上げていった高野寛のセンスが大きな力となっていることは間違いない。

サウンドとヴォーカルの両面で表現力の高さを再確認


アルバムを聴いて感じるのは、それぞれの楽曲がホンモノのサウンドをもっていることだ。例えばラテンテイストの曲も、けっしてラテンぽさを取り入れたというレベルではなく、そこにはホンモノのラテンのグルーヴが感じられる。そんな音づくりへのこだわりは、収録曲の「ピアノ」がポルトガルの民族音楽ファドのテイストの曲だからと、宮沢和史は実際にポルトガルで演奏部分をレコーディングしたというエピソードにも現れているのではないかと思う。

けれど、なにより印象的なのが、モダン・フォークロア・テイストを打ち出したサウンドの面白さ以上に、その演奏がしっかりと小泉今日子のヴォーカルに寄り添って、彼女の声の表情にナチュラルな陰影をつけていることだ。

逆に言えば、ヴォーカリストとしての小泉今日子が、このアーシーで繊細な表情をもったサウンドの響きと遜色のない表現力をもっていることを、このアルバムは僕たちに教えてくれているということでもあると思う。

もともと小泉今日子は、声量で勝負したり、歌い上げを得意とするタイプではないけれど、歌詞が持っている表情を効果的に伝えてくれるシンガーだった。それが、役者としても活躍することで、言葉の表現力をより深いものにしていったのだろうか、このアルバムでは、ちょっとした声のトーンの変化や息遣いなどで、歌詞に込められている表情がさり気なく、けれどリアルに浮き上がってくる、どの曲も、そんな魅力にあふれているのだ。

まさに『厚木I.C.』は小泉今日子の歌の表現力の高さを再確認させてくれるアルバムでもあるのだ。

メロディメーカー・宮沢和史の魅力


アルバムの収録曲全体を通して強く感じるのは、宮沢和史のメロディメーカーとしての魅力だ。個人的にこのアルバムでいちばん好きなのが2曲目の「モクレンの花」(作詞・作曲:宮沢和史)だ。この曲はTin Pan Family(Dr:林立夫、B:細野晴臣, Kb:佐藤博、Perc:浜口茂外也)が演奏していることでも注目されているが、なによりもセンチメンタルで美しいメロディをサラリとした手触りの中にしっかりと感情を込めていく小泉今日子のヴォーカルが心にのこるのだ。

アルバムタイトルの『厚木I.C.』が、小泉今日子の出身地と重なっていることは最初に触れたけれど、このアルバムには “自分の自然な気持ちに沿った歌” というコンセプトがあるのだろうと思う。ジャケットもとてもナチュラルなスナップイメージの写真で構成されている。

しかし、ここにあるのはけっしてナイーブな “初心” に戻る、という感覚ではないだろう。その時々の感性にそって素直に歌う事で、その楽曲のポテンシャルをしっかりと引き出せる力量を彼女が備えたということ、だからこそ大袈裟な武装をしなくても高いクオリティの表現ができる、という段階に、小泉今日子が達したということを、このアルバムは示しているのだという気がする。

その意味で『厚木I.C.』は、その後の「潮騒のメモリー」(2013年)にもつながる作品なのではないかと思うのだ。

40周年☆小泉今日子!

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2022.03.27
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