11月1日

時代を駆け上がった松田聖子、人気絶頂の佐野元春が提供した「ハートのイアリング」

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唯一無二、アイドルのまま時代を駆け上がった松田聖子


アイドルは、アイドルのままではいられない。これまでの芸能界の歴史を俯瞰してみても、誰もがアイドル(偶像)のままで年を重ねることは難しくマイナーチェンジは必須となる。

例えば小泉今日子は、既存の殻を打ち破ることで、変幻自在にありのままの自分をさらけ出しながら、女優としての新境地を築き、時代と格闘していった。中山美穂や工藤静香は、少女から大人の女性への変貌を歌に託しながらヒット曲を連発していった。

では、松田聖子はどうだろう。誤解を恐れずに言ってしまえば、彼女こそが、デビューから40年、シンガーとしての実力を備えながらも、アイドルのまま時代を駆け上がってきた、唯一無二の稀有な存在だったと思う。

確かに、彼女にもアイドルからシンガーへの過渡期があったと思うし、いくつのも転換期もあった。大瀧詠一が作曲・編曲に携わり大きく関与した傑作アルバム『風立ちぬ』のリリース、円熟期を迎えてからの海外進出、1996年にリリースされた38枚目のシングル「あなたに逢いたくて~Missing You~」では自らが作詞・作曲を手掛け、自身最大の売上を記録する。

アイドルからシンガーへ、そしてアーティストへの大きな野望と共に世界を股にかけて活躍をしながらも、彼女の根源である “アイドル” という立ち位置には一寸もブレなかったように思える。

「ハートのイアリング」作曲のHolland RoseはNY帰りの佐野元春


それが顕著に表れているのが、19枚目のシングル「ハートのイアリング」ではないだろうか。

デビュー黎明期「青い珊瑚礁」「風は秋色」「チェリーブラッサム」というポジティブで可憐な楽曲を圧倒的な声量で自分のものにした松田聖子。その後、「白いパラソル」からは松本隆プロジェクトのもと、今もエバーグリーンな輝きを放ち続けるヒットを連発する。そして、大瀧詠一が手掛けた楽曲「風立ちぬ」を起点として呉田軽穂(松任谷由実)、細野晴臣など錚々たるメンツがソングライティングを手掛けた楽曲を自らの世界観に引き寄せながら、当時ニューヨークから帰国したばかりの佐野元春(クレジットはHolland Rose)とタッグを組み、1984年にリリースされた。

ここで興味深いのは、当時の佐野元春といえば、周知のとおり、人気絶頂の時期に単身でニューヨークに乗り込み、これまでのキャリアをすべて捨てるかのように革新的な音楽にのめり込み、日本で初のラップを取り入れたアルバムとされる『VISITORS』をリリース。それからわずか半年後のことだった。

革新的に尖っていく元春がアイドルに楽曲を提供する… これだけでも大事件だ。さらに佐野元春作品に大きく関与したアレンジャー大村雅朗氏の手腕により、「SOMEDAY」や「Rock & Roll Night」といった初期の元春ナンバーのオマージュをふんだんに散りばめていく。そこには、「風立ちぬ」から踏襲されたフィル・スペクターを思わせる重厚なサウンドがポップな旋律を彩っていた。

時代のマスターピース、色褪せぬ聖子ワールド


このようなソングライター、アレンジャーによる音楽的趣向を兼ね備えながらも、「風立ちぬ」を自分のものとした松田聖子がそこに描く情景は、可憐で、無垢で、切ない、聴き手と等身大のひとりの女性だったということだ。

この「ハートのイアリング」で注目すべきリリックは、

 STAY WITH ME 雨が雪に
 変わるわペイヴメント

 頭のなかでこしらえた彼と一緒に

「変わるペイヴメント」でなく、「変わる “わ” ペイヴメント」なのだ。「描いた」ではなく、「こしらえた」なのだ。この機微が大きなニュアンスの違いとなる。そこに込められた感情が、映し出されたパーソナリティこそが、アイドル松田聖子の本質であると思う。

どんなに楽曲が素晴らしいものであっても、語るべき要素が多くあっても、松田聖子というひとりの女性の存在感に陶酔してしまうのだ。もちろんここには、作詞者・松本隆の存在が大きい。

こうして、アイドルのまま、シンガーやアーティストといった称号に相応しいクオリティまで楽曲を昇華させたのだと思う。ちなみにこの「ハートのイアリング」で松本隆プロジェクトは一旦幕を閉じ、彼女は新たなステップを踏み出していった。

デビューから40年。聖子ワールドは色褪せることはない。松田聖子がアイドルであり続けることで、彼女が時代を彩っていった楽曲も懐かしさで語られることはない。まさに時代のマスターピースとして、若い世代にも受け継がれているのだ。



2021.02.20
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カタリベ
1968年生まれ
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