2019年1月22日、スティーヴ・ペリーが70歳の誕生日を迎えた。
早いもので彼が98年にジャーニーを正式に脱退してから、すでに約20年の時が経過した。僕はレコード会社の制作ディレクターとして、丁度その空白の期間にジャーニーを担当した一人だ。
最初の後任ヴォーカルはスティーヴ・オウジェリー。ファーストネームも同じで風貌や声の印象もどこか似ており、すでにジャーニーで1枚のアルバムとライヴでのキャリアを積んでいた。日本盤の契約に何とかこぎつけたものの、ニール・ショーンと並ぶ中心人物が不在の状況でどのようなプロモーションをすればいいのか… 僕はすぐさまそんな難題に直面した。
この決定的なマイナスな要因を覆すために、オウジェリーがいかにペリーに似ているかを必死でアピール。さらにニール・ショーンら黄金期のメンバーがいる限りジャーニーは変わらないことを殊更に強調するなど、幾つかの方向性を試みたが、スティーヴ・ペリーという存在はあまりにも大きい。その呪縛から逃れることは容易ではなかった。
カタリベの喜久野俊和さんが、
CBSソニーで黄金期のジャーニーを担当したという貴重な体験談は興味深かった。また、ジャーニーの著書でお馴染みの音楽評論家の和田誠さんからも当時のお話を何度も直接伺ったが、僕は自分の置かれた立場と比較して、ペリー在籍時にジャーニーと携わった方々が素直に羨ましく思えて仕方がなかった。こうしたスティーヴ・ペリーへの未練は、僕のような多くのジャーニーファンのみならず、当事者であるニール・ショーンとて同じだったのでないか。
70年代、一介のプログレハードロックバンドだったジャーニーが一躍スターダムにのし上がったのは、ペリーの加入が最大の要因であることは誰もが知っている。それだけに、驚くほどペリーと酷似した現任ヴォーカルのアーネル・ピネダにニールが惚れ込んだことも理解できる。おかげでバンドは一時の停滞を抜け出し完全蘇生を果たした。
しかし、過剰なまでにペリーと瓜二つなアーネルの歌唱に触れるたび、上質な “コピーバンド” を見聞きしているようで、複雑な気持ちになるのも事実。彼がスティーヴ・ペリーに近づけば近づくほど、かえってペリーへの想いが増してしまい、自分の中で神格化されていってしまうのは皮肉なものだ。
そして、2018年―― スティーヴ・ペリーが24年ぶりに音楽シーンへ帰還したことが大きな話題となり、その根強い人気ぶりを改めて示した。それは、いつの日か彼がジャーニーと再合流することを未だに夢見るファンが多い証とも言えるのではないだろうか?
そんなスティーヴ・ペリーの魅力を端的に堪能できるのが、84年のアルバム『ストリート・トーク』だ。
彼のソロ作品はジャーニーとは違った音楽性と称されることが多い。確かにルーツである R&B テイストが感じられたり、音作りもリバーブを抑え目にしてナチュラルに仕上げられれていたりと違いは感じられるものの、たとえソロであってもスティーヴ・ペリーが歌えばやっぱりジャーニーそのもの! それほどまでに「ジャーニーの歌声=スティーヴ・ペリー」という思いが脳内に刻み込まれている。これは彼が作詞のみならずジャーニーの大半の作曲に関与しており、曲作りに共通点があることも関係しているだろう。
また同アルバムには、ペリーが過去に在籍していたバンド、エイリアン・プロジェクトへの特別な思いがある。これは、メジャーデビュー直前に事故死したバンドメンバーに捧げられたもので、その当時のメンバーの一部がレコーディングに参加、エイリアン・プロジェクト時代の楽曲も収録されている。
その一方で全米3位を記録したヒットシングル「Oh, シェリー」では、彼が当時交際していた金髪の美女、シェリー・スワフォードへの気持ちをストレートに綴ったラヴソング。寸劇仕立ての PV には彼女自身が登場し、観ているこちらが恥ずかしくなるような熱々ぶりを2人は見せつけてくれる。
さて、スティーヴ・ペリーが80年代の洋楽ロックシーンの数多のヴォーカリストの中で、なぜ孤高の存在となり得たのか。勿論、圧倒的な歌唱力の高さや唯一無二のソウルフルなハイトーンヴォイスが万人を魅了したことは言うまでもない。だが、彼がセンシティヴで、物事に対し感受性豊かな人であることが大きく関わっているように思う。
仲間の死を心底悲しんだり、愛する人を情熱的に想ったり、彼が日常で経験する様々な事象や出来事が歌うことに意味を与え、彼の心を揺り動かしている。そこから生まれる偽りのない歌を紡ぐからこそ、説得力を持って聴き手である僕らの心に強く伝わるのである。
長らく音楽シーンを半リタイアしていた彼が、最新作『トレイシズ』(2018年)をリリースするに至った背景には、ブランクの期間に出逢った女性、ケリーへの深い愛があったのだそうだ。彼女の突然の死に直面しながらも、愛したことで得られた人生の意味が、再び彼を歌うことへと突き動かしたのだ。
これからも自身の心を映し出すエモーショナルな歌を歌い続けてくれる限り、スティーヴ・ペリーは僕らの心を捉えて離さないだろう。
2019.01.22