アーマ・トーマスの名前を知ったのは、1986年だったと思う。その頃、僕はローリング・ストーンズにのめり込んでいて、大好きな「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」が、アーマ・トーマスのカヴァーだったのだ。
そのせいもあってか、僕は長い間アーマ・トーマスのことを「ストーンズよりも上の世代の人」だと思い込んでいた。だから、後になって彼女がボブ・ディランと同い年だと知ったときは、本当にびっくりした。ミック・ジャガーやキース・リチャーズとも2つしか違わないのだ。
ただあの頃、僕はアーマ・トーマスのニュースを聞いた覚えがない。そのため、僕にとっては現役感の薄いアーティストだったと言える。
けれど、ディスコグラフィーを見ると、アーマは80年代に2枚のオリジナルアルバムをリリースしているし、1987年には初来日を果たすなど、充実した音楽活動を行っていたようだ。つまり、そうした彼女の動向が、まだ高校生だった僕の耳には届かなかっただけなのだ。
「オールド・レコーズ」は、そんな彼女が80年代にリリースした曲のひとつだ。僕はずっと後になってから知り、すぐに心を奪われた。聴くたびに、こんなピュアな歌があの時代に生まれていたことに、感謝を捧げたくなるのだ。
この美しい曲を書いたのは、ニューオーリンズ音楽の巨匠、アラン・トゥーサン。アーマもまたニューオーリンズの出身であり、2人は他にもいくつかの印象的な作品を世に送り出している。
音楽はその時代を色濃く映し出すものだ。しかし、それとは別に、時の流れに左右されることのない音楽というのもまた存在する。「オールド・レコーズ」はまさにそんな1曲だ。
川に本流と支流があるように、僕が知っている80年代とは別のところにアーマ・トーマスはいて、「オールド・レコーズ」を歌っていた。そばにはアラン・トゥーサンもいた。あの頃、同時進行でそんなことがあったという事実に、僕は静かな感動を覚えるのだ。
軽やかなギターのフレーズにのせてアーマは歌い出す。「古いレコードを聴きながら、あなたのことを想っている。とてもいい気分よ」。
ソウルミュージックならではのスウィートなグルーヴが聴く者を包む。そして、ハーモニカの澄んだ音色が聴こえてくると、胸の奥がかすかに痛むのだ。まったくソウルとはよく言ったものだ。聴いていると本当に魂が震えるのがわかるのだから。
古いレコード(Old Records)であっても、そこに魂(Soul)が宿っていれば、色褪せたりはしない。それが音楽の魔法だ。
聴く人がいる限り、解けることはない。
2017.07.05
YouTube / pieroangelo2
YouTube / Leonard Nosferatu
YouTube / ohadgel
Information