2月6日

自由への疾走、デヴィッド・ボウイのロックンロールで夜を駆け抜けて!

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photo:davidbowie.com  

デヴィッド・ボウイのロックンロールと僕が初めてコネクトしたのは、映画館だった。88年公開の仏映画、レオス・カラックス監督の『汚れた血』だ。舞台は20世紀の終わりのパリ。彗星が接近しているため、熱帯夜が続いている。そして、この街には愛のないセックスによって感染する新しい病気、「STBO」が蔓延していた…

ボウイのアルバム『ジギー・スターダスト(The Rise And Fall Of Ziggy Stardust)』を思わせる世紀末の世界で、恋人を思いながら、主人公のアレックスは真夜中のパリの街を疾走する。このシーンに流れるのが「モダン・ラヴ」だ。歪んだギターのイントロ、主人公のモノローグ、ボウイのシャウトと共に、淀み黒ずんだパリの街を駆け抜けるシーンは、まさに自由への疾走だった。

洋楽全盛の83年、シックのナイル・ロジャースと組み、彩り鮮やかにより幅広い層をターゲットにリリースされたアルバム『レッツ・ダンス』のオープニングナンバー。しかし、映画館で再会したこの曲は初めて聴いた時とまったく違うように聴こえた。そして、劇場からの帰り道、僕はバブルで浮かれた街並みを一瞥しながらも、なにか目に見えない危機感を察知していた。

「世の中ってなんかおかしくね?」
「一体自分は何に縛られているんだ」

そうした思いを巡らせる勇気をボウイの「モダン・ラヴ」は、僕に与えてくれたと思う。自由への疾走。危機感に当事者として向き合う勇気。僕にはこれらがボウイの煌びやかな世界観に隠された本質のような気がしてならなかったのだ。

2年後―― 僕は名盤『ジギー・スターダスト』(72年)に出逢う。

きっかけは、ブランキ―・ジェット・シティのファーストアルバム『Red Guitar and The Truth』に収録されている「あてのない世界」だった。


 そして君は 鉄の扉を開けて
 非常階段を降りて行く
 流れているのは 子供の時によく聞かされた
 FIVE YEARS で
 見つからないのが このダンスが終わった
 後の行き先


言うまでもなく “FIVE YEARS” とはボウイの「5年間(FIVE YEARS)」のことだ。

ベンジーの歌詞と歌声は時には狂気を孕みながらも、日常に潜む痛みを目の当たりにしてくれる。そして、そこにはそれでも生きていかなきゃという希望があった。

そして、デヴィッド・ボウイが、5年後に迫った人類滅亡の危機を歌った「5年間」。この曲の持つ希望というテーマ(本質)が「モダン・ラヴ」(83年)にもしっかり生きていることをカラックスの映画が証明してくれた。

考えてみれば、『汚れた血』が公開された88年からブランキ―がメジャーデビューした91年までの間というのは、僕の中では、バブル景気どころか、世紀末のサバイバル状態だった。

渋谷のセンター街には、革ジャン、革パンで武装、バタフライナイフを隠し持つチーマーたちと非合法の薬物を密売するイラン人。クラブに行けばサイコビリーのチームが誰彼となくケンカを吹っ掛け、ストリートの音楽は暴力と表裏一体だった――。

バブルの裏側を潜り抜け、刹那的な風景の中で生き急いでいたあの頃、もしかしたら残された時間は僅かかもしれないという思いが僕たちの意識の片隅にあったのかもしれない。

そんな思いを胸に秘め、91年に僕が繰り返し繰り返し聴いた『ジギー・スターダスト』。不安も憂いも危機感もすべてを包括しつつも鳴りやまない壮大なロックンロールは、いつだって絶え間ない勇気を与えてくれる。

地球の終わりの日がきたら、ターンテーブルに乗せるレコードはもうこれだと決めている。そして、「スターマン」に針を落とすだろう。


 何時だったか わからないけど
 光は薄暗くなってたよ
 俺はリラックスして ラジオを聴いてたら
 ある男のレコードがかかって
 そいつはこう歌った
 「ロックンロールにもっと魂を」って


そう。「ロックンロールにもっと魂を!」これこそが変幻自在のボウイが貫いてきたことではないか――。

終末はゆっくりと、ゆっくりと、忍び足で音を立てずにやってくるだろう。それでも僕らは希望を胸に、自由に向かって疾走しなければならない。

2019.01.10
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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