7月5日
80年代最後を飾る大物アイドル、Winkとタクシー券と僕のバブル初体験
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Winkが22年ぶりに復活をする! 今朝、このニュースをTwitterで知り、居ても立っても居られずに、僕は、今こうやってパソコンの画面と向き合い、このコラムを書いている。ユーロビートの緩やかなうねりと共に踊る彼女たちのシンメトリーな安定感こそが、80年代最後の大物アイドルとして、僕らの脳裏に今なお鮮やかに焼き付く。

Winkは、88年4月27日、「シュガー・ベイビー・ラブ」でデビュー。この曲は70年代、グラムロックと共に注目された50年代のロックンロールに忠実でキャッチ―なメロディが特徴である「バブルガム・ロック」(※)と呼ばれるルベッツのカヴァーだ。

さらに、カイリー・ミノーグの「愛が止まらない」やユーロビート三部作で知られるムーランルージュの「涙を見せないで」といったカヴァー。そして、「淋しい熱帯魚」と立て続けに大ヒットを飛ばす。

つまり、一般的に知られていたディスコミュージックの躍動感とは一線を画したダンスミュージックの系譜をお茶の間に持ち込んだ第一人者がWinkと言えるだろう。

Winkがデビューし、瞬く間にスターダムにのし上がっていく頃、僕はちょうどハタチになっていた。そして、小学館から発売されていた『GORO』という雑誌でライターの仕事をやっていた。

『GORO』は、雑誌が流行の最先端を作っていた時代、グラビア、ファッション、芸能情報からサブカルチャーまでを網羅した青年向け総合雑誌である。とりわけ、芸能人のスキャンダラスなヌードなどが話題となり、写真家、篠山紀信氏の撮影するヌードグラビアを「激写」と呼び社会現象にまでなった雑誌だ。

この中で僕は、半ページほどのアイドルインタビューを任されていた。内容は、近況を聞き、何か身に付けているものや、プロモーショングッズなどの読者プレゼントをサイン入りでもらってくるという他愛のないものだった。

当時は、銀座に事務所を構える芸能プロダクションが多く、周辺の喫茶店で話を聞き、公園や路上でカメラを構えるといったのんびりした取材だった。キャスティングも編集部から任され、毎週いろいろなアイドルに会いにいくのが楽しみだった。だが、当時絶頂を極めていたWinkに会いに行くなど、夢のまた夢だと思っていた。

好機は突然やってきた。確か88年の晩秋だったと思う。Winkが3枚目のシングル「愛が止まらない」をリリースし、大ブレイク。人気を確実なものにした時期だ。

秋が深まり寒さを感じる夜だった。呑気に自宅で家族と夕食をとっていると、突然電話が鳴る。GORO編集部で、僕の担当をしてくれていたMさんからだった。「今からWinkの取材や。彼女たちも忙しいからすぐきてくれへんか? 場所は…」こちらの有無を言わさぬ関西弁でそう言うとすでに電話は切れていた。

もちろん僕に行かないという選択肢はない。食事もそこそこに切り上げ、約束の神保町にあるチャイニーズレストランまで急いだ。家から神保町まで約30分。息せき切って店にたどりつくと、丸テーブルに並んだ豪華な料理の向こうに、おそらくピンクハウスだろう。ふわっとした服を着た、シンメトリーな二人が微笑んでいた。自宅のジャージ姿から約30分。僕はまるで異次元の世界に来たような気分だった。

インタビューといえど、30分前まで自宅で食事をとっていたのだ。なにも準備などしていない。そんな状況のたどたどしい質問にも関わらず、ひとつひとつ言葉を選びながら慎重に話してくれた彼女たちは、本当に優しかった。僕の思い描く、バブル期の派手な芸能界の印象とは程遠く、可憐さと誠実さを兼ね備えた安定感があった。

そしてこの安定感こそがWink最大の魅力だと思う。これまでお茶の間を席巻したユーロビートカヴァーといえば、85年の荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」(オリジナルはアンジー・ゴールド「イート・ユー・アップ」)や86年の長山洋子「ヴィーナス」(バナナラマのカヴァー。オリジナルはショッキング・ブルー)など、直情的なサウンドだ。しかしWinkの醸し出す世界は違った。

ヨーロッパの哀愁をしたためた緩やかなビートに、露出の少ないエレガントな衣装。そして、さみしそうに微笑む彼女たちの可憐さは、今までのアイドルにはなかったものだ。派手さはなく、自己主張も感じられない。この2人の姿こそがバブルに沸き立つ日本が求めていた癒しだったのではないだろうか。

この取材の後、僕は、GOROの編集部に戻り、カンヅメになって原稿を書くことになる。

締め切りギリギリ。翌日の朝、印刷所に原稿を渡さないとページは真っ白になってしまうという。わずか2ページほどの分量。写真がメインだったので、2000字にも満たない文字数だったにもかかわらず、僕は何度もダメ出しをくらった。

結局OKになったのは、空が白んできた明け方。そして、「おつかれ」と、それまで見たこともなかったタクシー券を渡された。フラフラになって出た小学館の正面で充実感と共に目にした赤やオレンジのテールランプ。無数のタクシーが列をなした情景を僕は一生忘れることがないだろう。

Winkとタクシー券…

今考えるとこれが僕のバブル初体験かもしれない。そしてすべての日本人が浮かれまくるこの時代、彼女たちの無垢で可憐な存在感こそが80年代最後に相応しい大物アイドルの憧憬である。


※注:
ティーンにも理解できる明快なロックンロールのこと。

2017.08.26
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