11月25日

まるで映画のよう!浜田省吾のクリスマスアルバム「CLUB SNOWBOUND」の美しい余韻

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1本の映画を観たような余韻を感じる「CLUB SNOWBOUND」


『CLUB SNOWBOUND』は、1985年にリリースされた浜田省吾初のミニアルバムだ。”反逆の象徴” として当時多くの少年の心を揺さぶった「MONEY」を収録したアルバム『DOWN BY THE MAINSTREET』の翌年の作品となる。

ちなみにこのアルバムは、サマーソングで構成された『CLUB SURFBOUND』とのカップリング『CLUB SURF & SNOWBOUND』として1987年にリイシューされている。

収録された全5曲は、ワンナイトのショートストーリーのように連なっている。聖なる夜の始まりを示唆する「CHAMPAGNE NIGHT」から、粉雪舞う街角に少年が繰り出す「SNOWBOUND PARTY -Tonight Visitors OK!-」、孤独の中、本物の愛とは何か葛藤する主人公を浜田がストーリーテラーとして描く「MIDNIGHT FLIGHT -ひとりぼっちのクリスマス・イブ-」、そして「♪どうか世界中の人に安らぎを運んでおくれ」と人生の悲哀を浮き彫りにしながら普遍的な愛を説く「SENTIMENTAL CHRISTMAS」など、さながら1本の映画を観たような余韻を感じる。

「SENTIMENTAL CHRISTMAS」は1981年にリリースされたアルバム『愛の世代の前に』に収録され、当時シングルカットされた「悲しみは雪のように」のB面に収録された「センチメンタルクリスマス」のセルフカバー。本作の収録時に歌詞の一部が書き直されている。



浜田省吾が少年時代に親しんできた音楽へのリスペクト


サウンド面を紐解いてみると収録された5曲の中には浜田が少年時代に親しんできたルーツミュージックへのリスペクトが絶え間なく感じられる。オープニングナンバー「CHAMPAGNE NIGHT」は絶妙なエコーがかかったアカペラナンバーだ。ここから、同じくドゥーワップの影響を大きく感じる「SNOWBOUND PARTY -Tonight Visitors OK!-」へ。浜田が従来のアルバムで魅せる焦燥感を掻き立てるようなオリジナリティより、完全に温故知新型サウンドに振り切っているのが心地よい。

アルバム全体の骨子としては、やはりフィル・スペクターの “ウォール・オブ・サウンド” からの影響が大きい。特にスペクターが1963年にリリースしたオムニバスアルバム『クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター』を思わずにいられない。ダーレン・ラブ、ロネッツ、クリスタルズといったスペクターとゆかりの深いアーティストを集結させ、「ホワイト・クリスマス」や「サンタが街にやって来る」、「きよしこの夜」などのクラシックナンバーを散りばめたこのオムニバスアルバムは、確かにパーティーチューンだ。しかし、浮かれ気分で聴くだけでは憚られてしまうような厳粛さを感じる。つまりポップミュージックの最も美しい部分と普遍的なクリスマスソングが見事に溶け合い、たとえ、クリスマスイブにひとりぼっちで窓の外に降る雪を眺めながら聞いていても心が満たされてしまうマジックを感じずにはいられない。浜田は、そんな魔法を収録された5曲の中に凝縮させた。



厳粛さと遊び心が絡み合ったクリスマスアルバム


また、4曲目「SNOW ON THE ROOF -Just Like You And me-」では、長きにわたりサウンド面で浜田を支えるギタリスト、町支寛二がリードボーカルをとり、浜田がバッキングボーカルを担当していることも興味深い。また、この曲の導入部は、ビーチボーイズと共に1960年代にサーフィン&ホットロッドサウンドを確立したジャン&ディーンの名曲「パサディナのおばあちゃん」(The Little Old Lady from Pasadena)からオマージという部分からも、随所に遊び心を感じずにいられない。

厳粛さと遊び心、この相反する2つの要素が絡み合っているという部分でも、従来の浜田の作品とは全く異なったポジションに位置する作品だということが分かる。前年には『DOWN BY THE MAINSTREET』、そして翌年には『J.BOY』をリリースすることでロックシンガーとしての揺るぎなき地位を確立するが、その狭間にこんな素敵なクリスマスアルバムをリリースしたことを忘れてはならない。



80年代、90年代に青春を過ごしてきた人なら、当時、クリスマスといえば、”恋人と一緒にいなくてはならない” という強迫観念の中で、焦りながら、心待ちにしながらこの時期を過ごしていたと思う。あれから長い月日が流れ、若い時には分からなかった心の平穏を知り、ひとりぼっちでも、仕事に追われながらでも、そんなクリスマスも悪くない、と思える年齢になったと思う。そんな人たちにこそ、このアルバムを噛み締めて欲しい。青春時代の煌めき、大人になってからの苦味、恋人や家族の大切さ、そんな人生の中で最も重要とされる思い出がじんわりと浮かび上がってくるはずだ。

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2023.12.24
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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