8月27日

夏の終わりソング:ハウンド・ドッグ「ROCKS」のビデオに宿るスピリッツ!

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夏休みの少年少女に必要なもの “真夏の大冒険”


夏休みの少年少女に必要なものは、いつの時代でもたったひとつ―― それは “真夏の大冒険” だ。

「13才! 真夏の大冒険~~!!」

… 2021年に開催された東京オリンピック・スケートボード女子ストリート決勝、西矢椛さんの金メダルシーンは今も記憶に残る。のちに、この “13才、真夏の大冒険” というフレーズは、2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされ、東京五輪を代表する名実況として語り継がれていくこととなる。それはきっと、彼女の笑顔、真夏の青空、そしてコロナ渦での五輪、色んな要素が混ざり合った中で、あの実況が自然にフィットしたからだと思う。

思い起こせば、映画『スタンド・バイ・ミー』が、青春映画の金字塔として支持されるのも、“真夏の大冒険” が描かれているからかもしれない。今でも、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」が流れてくるとウルっときてしまう(歳をとると涙もろくなりますね)。

では、僕が13才だった頃の “真夏の大冒険” って何だっただろう―― そんなことを考えていた時に、ふと思い出したのが、ハウンド・ドッグの「ROCKS」のMVだ。金メダルを獲った西矢椛さんと同じ、僕が中2の夏休みにこの曲はリリースされたのだけど、映像の中から発せられる彼らのロックスピリッツに、僕はたちまちくぎ付けになってしまったのだ。まぁ、オリンピアンの大冒険とは話のスケールが違いすぎるかもしれないが、今回は、このMVに宿っている “真夏の大冒険” について、ちょっと書かせて欲しい。

人口約5,000人。愛媛県松野町にハウンド・ドッグがやってきた!


愛媛県に松野町という町がある。四万十川の支流が流れ、全面積の8割以上が森林で占めている自然豊かな町だ。1986年の時点で人口5,842人、過疎化に悩む自治体である。当時、そんな町の現状に危機感を募らせた若者たちが、町おこしの起爆剤として野外コンサートを企画した。そこで白羽の矢が立ったのがハウンド・ドッグだった。

1986年のハウンド・ドッグと言えば、バンドにとって起死回生の大ヒット曲となった「ff(フォルティシモ)」を引っ提げて『CATS&DOGS TOUR』で全国を縦断中。まさに乗りに乗っている時期だ。そんな多忙な彼らに松野町の若者の熱意が届いたのだ。町の歴史上、初となる野外コンサートが実現。奇跡は起きた。

 野球場も強大な体育館も
 この町にはないけれど
 熱くたぎるロックへの想いは同じ。
 オレたちをつきうごかしてやまない
 オレはこの町でロックする。
 大友康平

開催決定の反響は大きく、チケットは飛ぶように売れ、当日には隣町まで大渋滞が発生、町を挙げての一大イベントに発展した。こうして1986年7月19日、四国の片隅で開催されたコンサートは、後世まで語り継がれる伝説的イベントとなったのだった。

11thシングル「ROCKS」松野町での伝説野外ライブがMVに!


そして、ハウンド・ドッグの11thシングル「ROCKS」は、このコンサートから39日後の8月27日にリリースされた。このMVには松野町コンサートの一部始終が克明に収められており、これは記録映像として見ても大変貴重な内容になっている。

夏の青空と広大な森林。5人の乗る単線の電車がゆっくり鉄橋を渡る。子供たちがその電車を追いかけて全力疾走。そんな場面から歌が始まる。駅に降り立った彼らを出迎えてくれたのは、名産品の桃を持った少女達、郷土芸能の五つ鹿踊り、そして「よう来たったねー」と頭を下げる麦わら帽子のおじいちゃん。町中のいたる所に彼らを歓迎するポスターや旗が見られ、まさに町中ハウンド・ドッグ一色である。

駅前から町を抜け歩いて会場に向かう道中には、彼らを追って多くの少年少女達が続く。とても過疎の町とは思えない熱気だ。会場に到着するやいなや、神主さんによるお祓いや鏡開きがあったかと思うと、場面は町役場への訪問、そして地元青年会に囲まれた歓迎会へと移り変わり、とにかく忙しい。“おもてなし” は、する側もされる側も真剣勝負なのだ。

とにもかくにも人口約5,000人の町に6,000人の観客である。映像の前半で全力疾走していた子供達は、会場でハウンド・ドッグの雄姿を瞳に焼き付けることが出来ただろうか。MVの終盤では、子供達が線路の上を、

 I WANNA ROCKS!
 胸にROCKS

… と歌いながら行進。ラストは、メンバーが乗る電車に子供達が大きく手を振って、別れを告げる光景で幕を閉じる。映像に出てきたこの子達は、今頃40代の働き盛りだろうか。大人になった彼らは今日も「胸にROCKS」を秘めながら、日本の、いや、世界のどこかで日々の仕事を頑張っているのだろう。

行ける町には全部行く! ハウンド・ドッグがくれたもの


5人は、この『CATS&DOGS TOUR』を経た後、今でも伝説のツアーとして語り草となっている、足掛け3年、全207公演にも及ぶ『BLOODS LIVE TOUR』を決行する。人口5万人以上の町で行ける町には全部行く! という訳だ。この、気力と体力の限界に挑戦しているとしか思えないようなツアーを手掛けるに際して、この松野町コンサートの成功が大きな糧となったのは間違いないだろう。

「ある時は下町の太陽、ある時は庶民のヒーロー」

これは、ある日のライブMCで大友康平がハウンド・ドッグについて表現した言葉だ。

今回改めて、この「ROCKS」のMVを観て、大友康平の言ったこの言葉の意味がよく分かった。そう、彼らはいつだって、日本の津々浦々まで会いに来てくれたヒーローなのだ。きっと、松野町の少年少女達にとっても、1986年7月19日は、かけがえのない “真夏の大冒険” だったに違いない。そして、この “リアル体験” こそが現在の日本において… コロナ渦でごっそり失われてしまった大切なものに他ならない。

―― そうそう、あの映像にくぎ付けになった、中2の時の僕自身の話に戻ろう。実は中3の夏休み、僕は生まれて初めてコンサートという物に足を運ぶことになる。それが、八王子市民会館でのハウンド・ドッグ『BLOODS LIVE TOUR』だった。同級生と2人で行ったその公演は、野外でもなければ町おこしでもないので、さしずめ “真夏の小冒険” といったところであったが、2階席前方のど真ん中の席から見たステージの光景と、あの、耳鳴りがするほどの爆音の衝撃は今でも忘れられない。

中でも一番忘れられないのが、ステージ上で熱唱する大友さんと一瞬目が合ったことだ。曲は「BAD BOY BLUES」の時だったと思う。その時僕は、拳を振り上げながらステージ上の大友さんを睨み返した。なぜって?それは「初めてコンサートに来た青臭い奴」だって大友さんにバレたくなかったからだ(笑)。

―― そして月日は流れ、あれから30年以上経った今、やっぱり僕は青臭い奴のままだ。2022年も夏が終わる。


※2021年8月28日に掲載された記事をアップデート


2022.08.19
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カタリベ
1972年生まれ
古木秀典
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