洋楽を聴き始めた頃から、スティーヴ・ウィンウッドの名前は知っていた。 「ユー・シー・ア・チャンス(While You See A Chance)」と「青空のヴァレリー(Valerie)」が、よくラジオでかかっていたからだ。どちらも良質なポップミュージックで、一過性のヒット曲にはない普遍性を感じた。だから、きっとこの人は本物なのだろうと思っていた。 調べてみると、スティーヴは60年代から活躍しているベテランミュージシャンで、かつては天才少年と呼ばれ、エリック・クラプトンとスーパーグループを結成するなど、そのキャリアはとても華やかなものだった。にもかかわらず、あまり派手な印象がないのは、きっと控え目な性格なのだろうと僕は考えた。元来、そういうアーティストに肩入れする傾向もあり、スティーヴは僕の中でますます気になる存在となっていった。 スティーヴがかつて在籍していたスペンサー・デイヴィス・グループのベスト盤を入手したのは、高校2年の春だった。60年代の録音とはいえ、僕が知っているスティーヴ・ウィンウッドの音楽とは大分違うように感じた。明らかに黒人音楽の影響を受けており、初期のローリング・ストーンズやアニマルズと同系列のバンドだとわかった。でも、違和感はまったく感じなかった。それはスティーヴのヴォーカルが、なにひとつ変わっていなかったからだと思う。 その年の夏、スティーヴ・ウィンウッドは待望のニューアルバム『バック・イン・ザ・ハイ・ライフ』をリリースする。僕はすぐにカセットテープに録音して、繰り返し聴くようになった。相変わらずセンスのいい良質なポップミュージックだったが、そこにスペンサー・デイヴィス・グループの頃から変わらない黒人音楽へのリスペクトが見え隠れし、そこが僕にはたまらなく魅力的だった。ブルーアイドソウルなんて言葉を覚えたのも、ちょうどこの頃だったと思う。 アルバムのオープニングナンバーでありファーストシングルとなった「ハイヤー・ラヴ」は、まさしくそんな曲だった。リズムのせいだろうか? それともヴォーカルだろうか? 曲が進むにつれどんどん躍動していく様が、とても黒っぽく思えた。ラジオの DJ が「歌詞が素敵なんです」と言って紹介したのを覚えている。それはラヴソングというよりは、もっと大きな愛について歌っていて、ゴスペルのようでさえあった。 考えてみなよ 至高の愛はきっと存在するはずだ 心の奥底か星空の彼方に隠れている それなしでは人生が無駄になる 君の心の中をよく見てみなよ 僕も自分の中を見てみるから おそらく「ハイヤー・ラヴ」とは、揺らぐことのない絶対的な愛なのだろう。そこには、この歌詞を書いたウィル・ジェニングスの宗教観が反映されているのかもしれない。この歌詞をスティーヴがあのソウルフルな声で歌い上げることで、強い説得力が生まれ、多くの人達の胸を打ったのだと思う。「ハイヤー・ラヴ」は大ヒットし、全米ナンバーワンに輝いたばかりか、グラミー賞のレコード・オブ・ザ・イヤーも獲得している。 ラジオの DJ が歌詞を読み上げた時、16歳だった僕にはぼんやりとしか意味がわらなかった。でも、不思議とよく覚えているのは、何かが僕の心の扉を叩いたからだと思う。歌詞はこう続く。 どこを見渡してもひどい状況 この世界では一体何がフェアなのだろう? 僕らは暗闇の中を歩き 何かを見つけようとしてはいるけれど それだけだと事態は悪くなるばかり 至高の愛を僕に 至高の愛を僕に 至高の愛を僕に 僕がずっと考えている至高の愛は どこにあるのだろう 僕は宗教的な人間ではないから、今をもってこの歌の意味を理解できていないのかもしれない。でも、あの時も、そして今も、この歌が有効であり続けているのはわかる気がする。それは何か大きなものにすがるとか、そういうことではなく、自分の中にあるはずの揺るぎない愛を見つけ出すことが、いつの時代の人にとっても重要だということだ。 もしこの世界に救いがあるとするならば、その鍵はひとりひとりの心の中にあるのだと、僕も信じていたい。
2018.09.11
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