3月21日

EPICソニー名曲列伝:佐野元春と大村雅朗のガチンコ対決「アンジェリーナ」

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photo:SonyMusic  

EPICソニー名曲列伝 vol.3

佐野元春『アンジェリーナ』
作詞:佐野元春
作曲:佐野元春
編曲:大村雅朗
発売:80年3月21日


いよいよ、EPICソニーの歴史における主役のお出ましだ。

しかし、売上枚数を書き写そうと、手元の『オリコン チャート・ブック』を見て、いきなりつまずく。この、歴史的とも言える佐野元春のファーストシングルや、続く『ガラスのジェネレーション』『Night Life』『SOMEDAY』『ダウンタウン・ボーイ』『彼女はデリケート』などが、まるごと記載されていないのだ(82年4月発売の『Sugartime』より記載されているが、その売上枚数はたった1.6万枚)。

要するに、これらのシングルは、大して売れなかったのだ。ということは、この『アンジェリーナ』の時点での佐野元春は、まだ海の物とも山の物ともつかない、新人シンガーに過ぎなかった。このシンガーが後に「EPICソニー史の主役」になることなど、世間の誰も考えてはいなかったのだ。

とはいえ、この曲に詰め込まれた音楽的アイデアは果てしない。

最も特筆すべきは、過去記事「デビュー曲のどアタマの音符に込められた佐野元春の大発明」にも書いた、日本語歌詞とビートとの組み合わせ方である。この曲の「どアタマ」の一拍=「♪ シャンデリ(アの)」、このたった一拍が、EPICソニー史を、さらに言えば、日本のロック史を変えた。

そしてもう1つ、この曲についての重要なポイントを書き加えるならば、それはアレンジである。担当したのは大村雅朗。彼こそ「EPICソニー史のもう1人の主役」だ。

この曲のアレンジについて、私は自著『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)でこう書いた――「ニューウェーブ版『明日なき暴走』」。『明日なき暴走』と言えば、もちろんブルース・スプリングスティーンの75年のヒット曲『Born to Run』の邦題である。

と書くと、「大村雅朗が洋楽のヒット曲を借用した」という、低い次元の話に聞こえるかもしれないが、それはまったく本意ではない。むしろ「ニューウェーブ」と『明日なき暴走』を掛け合わせるというダイナミックな発想と、それを不可分なく実現したアレンジは、大村雅朗という人の圧倒的な才能を証明するものだと思っている。

「ギョンギョロ・ギョンギョロ~」という感じの、不思議なエフェクトをかけたギターが鳴り響き、そして飛行機のジェット音のような「シャー!」という音が高まる。それらをかき消すような「ダダダーン!」というドラマティックなピアノを追って、極めつけは、こちらもエフェクトを強く効かせた、複数の乾いたサックス――。

文字にすると、何とも間が抜けているが、間が抜けていると感じるのは、未だに新しいと感じさせる音だからである。未だに「ニューウェーブ」だからである。こんなにチャレンジングなイントロは、なかなか無い。

ただし、そんな果敢なアレンジが、デビュー寸前、キレッキレの佐野元春が好んだかどうかは、また別の話である。佐野元春の公式サイト内にある、EPICソニーのキーパーソンの1人=小坂洋二氏へのインタビューより。


小坂:ええ。フリーダム・スタジオで「アンジェリーナ」や「バッド・ガール」などの4曲をレコーディングしました。大村雅朗さんのアレンジで、当時としては一流のスタジオ・ミュージシャンに集まってもらったんだけど、大村さんのアレンジにしても、彼らのプレイにしても、佐野君にとっては抵抗があって、どうしてもアレンジャーやプレイヤーへの注文が多くなるから、進行が滞るわけです。そうするとミュージシャンたちは僕に苦情を言いに来るし、アレンジャーの大村さんも困る。で、最後には「それなら自分でやればいいじゃん。冗談じゃない。俺たち、もう帰るよ」ということになる。だけど、ミュージシャンたちは皆、「しかし、あいつ、いったい何者なの?」と呟きながら帰っていきました。佐野君は彼らにそれだけ強烈な印象を与えたんですね。


佐野元春という人の面白いところは、その独特の奇妙で面倒くさい行動も、どこかコントのように感じられるところだ。このエピソードも、大村雅朗に対して、佐野元春が、いちいち面倒くさい注文を付けている姿を想像すると、何とも笑えてくる。

こういった経緯もあって、佐野元春は、自分の志向を理解してくれて、一緒に体現しようと努力してくれる、もう1人のアレンジャー=伊藤銀次と接近し、数々の名曲を残していくのだが、それはそれ、これはこれ。若き佐野元春と大村雅朗が、ガチンコでぶつかりあったこの曲のアレンジには、伊藤銀次アレンジ作品にはない、今にも着火しそうなヒリヒリした魅力が詰まっている。

『アンジェリーナ』のレコーディングに参加したミュージシャンが「しかし、あいつ、いったい何者なの?」と思ったとしたら、この曲のアレンジ、この曲のイントロを聴いた佐野元春は、大村雅朗のことを「いったい何者なの?」と思ったはずだ。

その後、佐野元春は『SOMEDAY』『VISITORS』『Cafe Bohemia』などの傑作・問題作を、EPICソニーから次々に発表し、そして大村雅朗も、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』や渡辺美里『My Revolution』など、こちらも傑作とも問題作とも言えるアレンジを、EPICソニーから世に問うていく。

佐野元春と大村雅朗―― この、まったく毛色の異なる縦糸と横糸が織りなしたものが、80年代という時代を鮮やかに彩った、鮮やかな EPICソニーの歴史だった。

2019.04.06
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カタリベ
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