2月1日

EPICソニー名曲列伝:遊佐未森「地図をください」エピックらしさとのやわらかな訣別

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EPICソニー名曲列伝 vol.23
遊佐未森『地図をください』
作詞:工藤順子
作曲:外間隆史
編曲:外間隆史
発売:1989年2月1日

平成の谷山浩子? EPICソニー名曲史上、最高に印象的な歌い出し


EPICソニー名曲史上、最高に印象的な歌い出しだと思う。

――「♪ 雲のない青空は」=「♪ ミファミ・ファミファ・ソファミ・ドー」。キーはGで非常に高く(先の「ソ」の音は上の上のDの音)、そして細かい話になるが「・」で区切った「ミファミ」「ファミファ」「ソファミ」が三連符になっている。

そういう印象的なメロディをやわらかい声質で歌い切る。そのシンガーの名前も個性的な「遊佐未森(ゆさ・みもり)」。

「やわらかい声質」は、ケイト・ブッシュや矢野顕子のそれに近い。しかし当時私が想起したのは、谷山浩子だ。中学生の時に愛聴した『カントリーガール』(80年)。あの声を思い出して「平成の谷山浩子」だと位置付けた。

その声質は、遊佐未森が国立音楽大学に在籍していたころに培われたものだという。同大学公式サイト内にある、遊佐へのインタビュー記事より。

――遊佐さんの今の歌い方はクラシックの発声法をベースに、大学時代に試行錯誤を繰り返しながら作り上げていったもの。裏声と地声、そしてその両者をミックスした中間の声を使い分けて歌っていて、それら3種類の声の混ざり具合が彼女の個性にもなっている。

遊佐未森の「EPICソニーらしくなさ」


しかし、ここからが今回の本題なのだが、当時の私はこの曲に、「EPICソニーらしくなさ」を感じたのだ。テレビ東京で放送されていた EPICソニーのプロモーション番組『eZ』を、食い入るように見つめていた大学3年生として。

佐野元春=大沢誉志幸=岡村靖幸というラインを、「80年代EPICソニーの背骨」だと、私は考えている。最新の洋楽のビートに、創意工夫を凝らして日本語を混入させ、日本の若者の手に届きやすくするライン。もちろん、このラインから『地図をください』は外れている。

また、よく考えたら、EPICソニーは、非常に男っぽいレーベルだった。男っぽい=ロックっぽい。言い換えると、歌謡曲っぽくない。

この連載「EPICソニー名曲列伝」で取り上げた音楽家についても、ほとんどが男性、もしくは男性のみのバンド。女性がいたとしても、渡辺美里や小比類巻かほる、鈴木聖美、杏子(BARBEE BOYS)と、非常にボーイッシュ / マニッシュな面々である(「特別枠」的な渡辺満里奈とテリー・デサリオ除く)。

その流れで遊佐未森の、それこそ森の中から聴こえてくるようなやわらかい声は、いかにも唐突だった。間口の広いCBSソニーならまだしも、EPICソニーには不釣り合いだという気がしたのだ。

「男っぽい=ロックっぽい」市場の対極にある「文科系女子」市場


手元にあるのは、92年に発売された、遊佐未森へのインタビューと写真で構成された本=『モザイクな日々』(ソニー・マガジンズ)。

ふんだんに挿入されている、ソフトフォーカスがかかった遊佐未森の写真は可愛らしいし(「特別枠」の渡辺満里奈に似ている)、「モザイクな日々」「お茶とひそひそ話」「よりみち」などの言葉遣いも、何というか、文科系女子という感じがする。

そう、「文科系女子」度の高さに、当時の私は「EPICソニーらしくなさ」を感じたのだ。

言い換えれば、時代が平成に変わり、80年代を席巻した先進的レーベル=EPICソニーが、その余勢を駆って、88年デビューの鈴木祥子も含めて、これまでのレーベルを支えてきた「男っぽい=ロックっぽい」市場の対極にある「文科系女子」市場に打って出ようとした時期だったのだろう。

カップヌードルのCMタイアップ、シュワルツェネッガーとは噛み合わない…


実はこの曲、日清カップヌードルのタイアップが付いた。その事実だけからすると、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』、鈴木雅之『ガラス越しに消えた夏』の流れを汲む、EPICソニー王道の系譜となる。

『EPICソニー名曲列伝:大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」の見事なチームプレイ』にも書いたように、『そして僕は途方に暮れる』版は、外国人の子供が、カメラに向かってキスするふりをするシンプルな構成の映像だった。そんなシンプルな映像に、『そして僕は途方に暮れる』の淡々としたサビが流れて、視聴者の心に強く印象付けられたのだ。

しかし、『地図をください』を使ったカップヌードルのCMには、タレントが起用されていて、CMの印象は、そのタレントにすべて持って行かれる結果になった。そのタレントの名は―― アーノルド・シュワルツェネッガー。

シュワルツェネッガーが自動車を担ぎながら道を歩いてくる。そしてカップヌードルを美味しそうに食べる。そこにコピー=「シュワルツェネッガー、食べる。」。『そして僕は途方に暮れる』版の「きみの、つぎにあったかい。」という情緒的なコピーとは位相が異なっている。

そんな映像に『地図をください』のやわらかな声質は、いかにも噛み合わない。CM映像との見事なフュージョンに命を懸けてきた「EPICソニー・CMタイアップ列伝」の中で、極めて特異である。

いよいよバブルが最高潮、時代もエピックも変わっていく


分析的な物言いをすれば、1984年の段階では、『そして僕は途方に暮れる』版のシンプルで情緒的な世界観が受け入れられる時代だった、しかし89年、いよいよバブルが最高潮化してくると、そういう情緒やヘッタクレより、外タレ使って派手派手しくドーンと!という方向に、時代の空気が変化したのだろう。

EPICソニーも変わっていく。時代の空気も変わっていく。

この連載も、前半、中盤を経て、いよいよ後半に入ってきた。昭和から平成、80年代から90年代、バブル発生からバブル崩壊へと変化していく時代の中、朗々とした女性ボーカルで90年代を席巻するあの3人組に向かって、EPICソニーもカーブを切っていく―― その歩みをたどっていきたい。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

■EPICソニー名曲列伝:バブル期の若者に寄り添った BARBEE BOYS の言文一致体
■ EPICソニー名曲列伝:岡村靖幸「だいすき」が好き過ぎた平成最初の夏
■ 鈴木雅之「ガラス越しに消えた夏」に刻まれた神アレンジ【EPICソニー名曲列伝】
etc…

2020.03.02
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