9月1日

日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その4)

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いよいよ最終回まで来ました。今回はまず、90年代初頭の「がんばろう系カノン」の百花繚乱状態を検証していきます。

「みんながんばろうよ」という感じの、根拠不明なポジティブさが埋め込まれた歌詞を持つ「カノン進行」の曲が、当時やたらと出てきました。今回もキーをCに移調したコード進行を添えて、それらを見ていきます。


■KAN 『愛は勝つ』(1990年9月1日)201.2万枚

「♪ 心配ないからね~」
【C】→【G/B】→【Am7】→【Em7】→【F】→【C/E】→【Dm7】→【G】


■槇原敬之『どんなときも。』(1991年6月10日)167.0万枚

「♪ 僕の背中は自分が~」
【C】→【Em/B】→【Am7】→【Am7】→【F】→【C/E】→【Dm7】→【G7】


■大事MANブラザーズバンド『それが大事』(1991年8月25日)160.3万枚

「♪ 負けない事・投げ出さない事~」
【C】→【G/B】→【Am7】→【Em/G】→【F】→【G】→【C】→【Am】→【F】→【G】→【C】


■ZARD『負けないで』(1993年1月27日)164.5万枚

「♪ 負けないで もう少し~」
【C】→【G/B】→【Am7】→【Em7】→【F】→【C/E】→【Dm7】→【G7】


■岡本真夜『TOMORROW』(1995年5月10日)177.3万枚

「♪ 涙の数だけ強くなれるよ~」
【C】→【G/B】→【Am7】→【Em】→【F】→【C/E】→【Dm7】→【G7】


さぁ、どうでしょう。例えば、純正の「カノン進行」に一工夫加えようとしていた村井邦彦や財津和夫に対して、こちらのコード進行はかなり、純正の「カノン進行」をそのまま使っています。また、その上に乗る歌詞のテイストの実に均一なこと! そして70年代には考えられなかった莫大な売上枚数――。

このような百花繚乱状態になった最も大きな理由は、この時期、雨後のタケノコのように突然増えだしたカラオケボックスにあると思います。ベースの音程が一つひとつ下がっていくのを聴きながら歌うことの、あの妙な安心感。まるで羊水の中で浮いている感じに近い感覚があると思うのです(羊水の記憶はありませんが)。

そしてその上で歌われる「みんながんばろうよ」という歌詞。カラオケボックスという密室空間の中で、最大公約数の人々が盛り上がれるメッセージ。バブル崩壊が訪れる日本経済に対して、傷をなめ合いながら、かりそめの活力を得るための対症療法とでも申しましょうか。

あと、例えば米米CLUB『浪漫飛行』(1990年4月8日 / 107.9万枚)や、井上陽水『少年時代』(1990年9月21日 / 85.3万枚)のような、「がんばろう系・じゃない方の・カノン」のメガヒットも、側面から影響したと思います。さらには、1998年の頂点に向かっていく「CDバブル」も、さらにその側面から影響したことでしょう。

こうして、Jポップに「カノン進行」が完全定着。赤い鳥『翼をください』から本格的に始まった「日本製カノン」が市民権を得るのです。

というわけで、「日本における『カノン進行』の源流を探る旅」は、これにて終了。最後の最後に、補論を加えておきます。

(1)日本の「カノン進行」に影響を与えたもう1つの洋楽

プロコル・ハルム『青い影』(67年)、パーシー・スレッジ『男が女を愛する時』(66年)、ザ・ビートルズ『レット・イット・ビー』(70年)が、日本の「カノン進行」発展に大きく影響を与えた洋楽と書きましたが、もう1曲、そういう曲をご紹介しておきたいと思います。

シルヴィ・バルタン『あなたのとりこ(Irrésistiblement)』です。日本では69年に発売され、再発売となった70年盤が11.8万枚のヒットになっています。その快活なメロディが支持されて、その後も、何度も何度もCMに使われました。この曲の影響も、決して小さくはなかったということを付け加えておきます。

(2)「日本カノン進行の祖父」について

このシリーズの第2回で、「日本カノン進行の父」は村井邦彦、「カノン進行の母」は松任谷由実と書きましたが、改めて考えて「祖父」がいました。作曲家のすぎやまこういちです。

彼が書いた、ヴィレッジ・シンガーズ『亜麻色の髪の乙女』(68年)とザ・タイガース『落葉の物語』(68年)は、日本における「カノン進行」の源流にふさわしい。特に『亜麻色の髪の乙女』は、その2年前(66年)に青山ミチに提供された曲らしいので(曲名は『風吹く丘で』)、これはおそらく「日本最古のカノン」となるのではないでしょうか。

(3)「隠れカノン」について

このシリーズ記事で取り上げた以外にも、「カノン進行」のヒット曲はたくさんあります。とりわけ最後に強調しておきたいのが、ごくごく早期に「カノン進行」を導入しながらも、そのフォークソングっぽい見てくれで「カノン進行感」が非常に弱いヒット曲です。

その代表は太田裕美『木綿のハンカチーフ』(75年)でしょう。ただ、ギターを中心としたフォークっぽい編曲と、コード進行より耳を奪う、そのドラマティックな歌詞のせいで「隠れカノン」になってしまいました。かぐや姫『妹』(74年)もその仲間ですね。

―― というわけで、私の連載初の大特集=「日本における『カノン進行』の源流を探る旅」は、これにて完全終了。最後に、「日本カノン家の人々」をまとめておきます。


■「日本カノン家の人々」

日本カノン進行の祖父―― すぎやまこういち
日本カノン進行の父―― 村井邦彦
日本カノン進行の母―― 松任谷由実
日本カノン進行の叔父―― 財津和夫
日本カノン進行の息子―― 山下達郎

そんな「カノン家」の住まいは―― カラオケボックス

2018.05.27
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