2月26日

80年代イントロなんでもベスト3 ~ その1「あの夏イントロ」

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いよいよ、私の新刊『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)が発売されます。発売日は10月5日。80年代の邦楽ポップスを、イントロから分析していくという、おそらく日本初、いや、もしくは世界初の「イントロ評論本」です。

というわけで、今回からは、新刊発売記念の特別企画として、「80年代イントロなんでもベスト3」と題して、色んな評価基準における、80年代イントロの「ベスト3」を決めていきたいと思います。

今回はその第1回として「あの夏イントロベスト3」をお届けします。「あの夏」=今や遠く過ぎ去ってしまった、80年代の「あの青春の夏」。あの季節への郷愁を誘うイントロを3つ、ランキング形式でお届けします。


第3位:稲垣潤一『夏のクラクション』
作詞:売野雅勇
作曲:筒美京平
編曲:井上鑑
発売:1983年7月21日


83年のあの夏。35年前の夏への郷愁をぐっと引き出すのは、薬師丸ひろ子『探偵物語』の圧倒的なイントロを手がけた井上鑑が、その直後に放った傑作イントロだ。イントロの主役は、サステイン(持続効果)を強烈に効かせたスライドギター(今剛による)。

一般に、ギターの弦を弾いた音は、弾いた後、音量がすぐに減衰してしまうが、ここでは、電気的処理を施して、「キュン」ではなく「キューーーーーン」と持続させるように響かせている。

ギターによるメロディは、階名では「♪ドー・レー・ミ・ー・ミレファミ・レッミ・ドー・ー」(キーはA♭)。この「ー」で表現される部分が、そのサステインである。

加えて、サステイン・ギターに深いディレイ(エコー)をかけ、まるでかなり遠くで弾いているような効果を醸し出している。そこでの「遠さ」が「遠く去りゆく夏」につながっていくという具合である。

同じようなギターの使い方をしているのが、同年の11月に発売された、安全地帯『ワインレッドの心』(編曲:安全地帯・星勝)。おそらく、ある程度参考にしたのではないか。こういうイントロは、ヘッドホンで聴くのではなく、スピーカーから空気を震わせた爆音で聴いてみたい。


第2位:桑田佳祐『いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)』
作詞:桑田佳祐
作曲:桑田佳祐
編曲:桑田佳祐 小林武史 藤井丈司
発売:1988年3月16日


88年のあの夏。平成最後の夏を終えた2018年から、ちょうど30年前、昭和最後の夏に愛されたこのイントロに、耳を澄ませてみたい。

イントロは12小節。ただし23秒もあり、1つの作品として聴くこともできる。

始めの4小節は、言わば「イントロのイントロ」。キーはC。チープなリズムボックスと、チョロチョロ動くシンセで、聴き手のご機嫌を伺う。実は、サザンの名曲『メロディ(Melody)』のリズムボックスと同じリズムパターンだが、『メロディ』の荒々しい響きに対して、こちらは断然やさしい。

続く4小節の始まるところで、いきなり1音上(D)に転調をして、目が覚めたような効果を与える(このあたり、実にプロフェッショナルな音作り)。いわゆるカノン進行に沿って、ベースが ド→シ→ラ→ソ と降下。カノン進行という常識的なコード進行で、覚醒した聴き手の心を少し安堵させる。

そしてその次の4小節は、【Em】の中で音が レ→ド♯→ド と半音ずつ下がっていく「クリシェ」となる。この「クリシェ」によって、少しばかり緊張感が高まる。そして最後の【A7】で再度落ち着いて、歌メロに入る。

という、めくるめく音世界なのだが、すべてをひっくるめて立ち込めてくるのは、まぎれもなく「あの夏」感である。デジタルサウンドを駆使しながらも、ひたすらヒューマンでやさしいイメージが広かる。昭和最後の夏に、甘酸っぱい思い出が広がるのは、実はこのイントロのせいかもしれない。


第1位:鈴木雅之『ガラス越しに消えた夏』
作詞:松本一起
作曲:大沢誉志幸
編曲:ホッピー神山
発売:1986年2月26日


86年のあの夏。80年代「あの夏イントロ」と言えば、これに尽きる。

作曲は大沢誉志幸で、同じく大沢作曲の『そして僕は途方に暮れる』の姉妹作のような位置づけ。ただし、作詞家と編曲家は異なる。作詞は『そして僕は途方に暮れる』が銀色夏生で、この曲が松本一起。そして編曲家は『そして~』が大村雅朗で、この曲がホッピー神山。

大沢誉志幸は、編曲家に恵まれた人で、『そして僕は途方に暮れる』の大村雅朗による編曲も傑作。それを受け継いだかたちで、この曲の編曲を依頼されたホッピー神山は、大村雅朗作品の研究を徹底的にしたはずである。

その結果として、大村雅朗編曲(+作曲)による、松田聖子『SWEET MEMORIES』の、あの空気のように繊細なイントロを聴いて震えたのではないか。そして、あのイントロをさらに発展させたかたちで、この曲の、イントロを含む全体の編曲を設計したと思うのだ。

具体的には、この『ガラス越しに消えた夏』のイントロ各小節の3~4拍目に入る「チャチャ・チャッ」という、タンバリンのような8分音符が、『SWEET MEMORIES』イントロの奥の方で響く「チャチャ・チャチャ」に、とても似ている。

歌と歌詞とメロディ、そしてホッピー神山のアレンジが渾然一体となっている。この曲を聴きながら、次のカーブ切れば、おニャン子クラブととんねるずがブラウン管の中を占拠していた、パステルカラーのあの夏だ――。


―― 以上、80年代の「あの夏イントロベスト3」をお届けしました。新刊『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』では、こういう話を、こういう筆致で、でももっと長文でこってりと分析していますので、ぜひご一読下さい。

2018.09.28
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  YouTube / ケロ*利穂


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カタリベ
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