前回までのあらすじは、『My Revolution』のあのイントロ=「♪ タトタトタトタ トンタタッター タトタトタトタ トンタタッター フーウー フーウー……」の、「♪ フーウー フーウー」の女性裏声ボーカルは、渡辺美里本人によるもので、レコーディング時、ほんの偶然に生まれたという衝撃の事実でした。
さて、今回は、あのイントロのコード進行を探りたいと思います。最近は便利なもので、コード進行がネットですぐに検索できます。今回は「楽器.me」のサイトで見てみます。
(参考)『My Revolution』渡辺美里 歌詞 /コード検索サービス・楽器.meイントロから本編までずっと続いているコード進行は【EM7】→【F#onE】→【D#m7】→【G#m7】です。
何だか「#」が多くてややこしいですね。これは、この曲のキーが「B」という変態的なキーだからです。なので、これを半音上げて「C」のキーとして、そしてコードネームの表記を一般的なものに変えてみます。
【Fmaj7】→【G/F】→【Em7】→【Am7】
あれ? 何か見覚えがありますね。そうです。これぞ、あの「後ろ髪コード進行」ではないですか! 思い出すために、このリンクをご覧ください。
(参考)中村あゆみ『翼の折れたエンジェル』が持つ奇跡的フレーズの音楽性 ②上のリンクで取り上げた、以下の曲の《 》内のところの「分数コード」の響きをイメージしてみて下さい。
■オフコース『Yes-No』:「♪ 君を抱いて《いいの 好き》になってもいいの」
■荒井由実『卒業写真』:「♪ 人ごみに《流され》て」「♪ 変わってゆ《く私》を」
■チューリップ『青春の影』:「♪ 自分の《大きな夢を》追うことが」
■中村あゆみ『翼の折れたエンジェル』:「♪ もしお《れがヒーロー》だったら」
「分数コード」の響きと歌詞の内容が合わさって、「理想に後ろ髪を引かれながら、現実に踏み出そう」という印象を与える、センチメンタルなコード進行を「後ろ髪コード進行」と名付けるという話でした。
そして、その系列に『My Revolution』も入るということなのですが、『Yes-No』『卒業写真』『青春の影』『翼の折れたエンジェル』と『My Revolution』には、決定的な違いがあります。
それは、「後ろ髪コード進行」をサビだけに使っている『Yes-No』『卒業写真』『青春の影』『翼の折れたエンジェル』と違って、『My Revolution』は、イントロから「♪ 壁の落書き 見上げてるよ」まで、何と9回も、臆面もなく繰り返しているということです。
このイントロの、デジタルなのに胸がキュンとする感じの背景には、「後ろ髪コード進行」がありました。しかしそれだけでなく、『Yes-No』『卒業写真』『青春の影』『翼の折れたエンジェル』とは違う、『My Revolution』固有の=すなわち作曲家・小室哲哉固有の新しさとして、このコード進行を、サビまでもったいぶるのではなく、逆にイントロからサビ前まで、9回も乱打して、「胸キュンの水びたし」とでも形容できる感覚を聴き手に与えるという発想もあったのです。
分かりにくいだろうなぁと思いつつ、また「後ろ髪コード進行」の話をしてしまいました。ちょっとでも分かりやすくするために、また映像をご用意します。
1つは、洋楽になりますが、「後ろ髪コード進行」の世界最高傑作である、カーペンターズ『青春の輝き(I Need To Be In Love)』のサビです。1分22秒あたりからのサビ=「♪ I Need To Be In Love」の部分が、見事な「後ろ髪コード進行」になっています(1小節目で、ベースが同じ音をキープしているのも確認しやすい)。
そしてもう1つは、「後ろ髪コード進行」研究の同志「アライさん@idatomo」さんによって、このたび発見された、私が知る限り世界最古の「後ろ髪コード進行」の曲です。それは、20世紀初頭に作られた、イギリスの作曲家・エルガーの『威風堂々』。
下にある味の素「Cook Do」のCMの0分10秒あたり、木梨憲武のアップの途中から流れてくるフレーズが、おおよそ100年以上前の「後ろ髪コード進行」です。
以上、「♪タトタトタトタ トンタタッター タトタトタトタ トンタタッター フーウー フーウー……」。あの強烈な印象を与える傑作イントロには、レコーディング時の偶然と、「後ろ髪コード進行」の乱打があったというお話でした。
2017.09.03