10月25日

KAN「NO-NO-YESMAN」鍵盤男子が好きだった!

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photo:UP-FRONT WORKS  

70年代、ピアノで弾き語る男性シンガーは小田和正と原田真二くらい?


鍵盤男子が好きだ。ギターを弾く男子の指も大好物だが、鍵盤をガシガシ、あるいはしなやかに弾く男子の指も私の大好物。その指が奏でる音の響きや流れが素敵であればなおさら、お酒を美味しくしてくれる。

ピアノを弾き語りする女性シンガーといえば小坂明子さん、太田裕美さん、八神純子さん… と次々名前が出る。一方、男性シンガーといえば、日本ではオフコースの小田和正さん、原田真二さん程度くらいだった。

そんな流れが変わったのは1980年代だろうか。高度成長期、ピアノを習わされた男の子たちが大人になり、バンドでキーボードを弾く、あるいはシンガーソングライターとしてピアノを弾きながら歌うようになった… ということも一因なのではないかとわたしは推測する。

ビリー・ジョエルでピアノロックに目覚めた鍵盤男子、KAN


今回取り上げる1962年生まれの KANさんも、子供の頃クラシックピアノを習い、ビートルズなど洋楽を聴き、高校時代にビリー・ジョエルに衝撃を受けてピアノロックに目覚めた鍵盤男子のひとりだ。

まだまだピアノポップ(当時そんな言葉はなかったが)な男性ポップスシンガーが少なかった1980年代後半、地方のラジオからじわじわと存在感を広げた KANさん。彼は北海道の STVラジオで『アタックヤング』を1988年から、また、大阪の FM802 で1989年の開局当時から1998年まで『MUSIC GAMBO』という番組を担当した。現在も北海道の STVラジオ『KANのロックボンソワ』、大阪の FM COCOLO でスターダスト・レビューの根本要さんとのコラボ番組『KANと要のWabi-Sabiナイト』で KANさんのトークや歌が聴ける。

わたしは1989年から1992年に上京するまでの間、FM802の『MUSIC GAMBO』を聴いていた。開局当時日曜日は村田和人さんと週替わりの担当で、面白かったのは「POP the Music」。KANさんと村田和人さんがそれぞれ何小節かメロディを交代で作り、そこにリスナーからの歌詞をつけていくコーナーだ。KANさんはブルーノートを上手に使ったカラフルなメロディを書き、一方の村田和人さんは骨太でストレートなメロディを書く人という真逆の印象があったが、そんな2人によって毎回繰り出されるメロディの化学反応を楽しみに聴いていた。

アルバム「NO-NO-YESMAN」の1曲目「今夜はかえさないよ」


さて、わたしが KANさんを知ったのは FM802 が開局する2年前の1987年。セカンドアルバム『NO-NO-YESMAN』の1曲目「今夜はかえさないよ」をラジオで聴いたのがきっかけ。作詞・作曲・編曲とも KANさん。ポップで、人懐こくて、それでいて少し変わったメロディ、そこに乗っているコミカルなことばの切なさ、そして凝ったヴォーカルワーク。サウンド面でも溢れるような情報量の多さに正直圧倒されたが、面白い人が出て来たな、と注目した。

また、アルバムタイトル曲「NO-NO-YESMAN」に描かれる男の子目線の歌詞も、とてもリアルに響いてたまらない。歌詞にある「♪ くわれっぱなしのDinnerとGasoline」 というのはメッシー君、アッシー君のこと。当時はそういう “優しい男の子” たちが世の中にウジャウジャいて、下心を隠した彼らを使い倒す “強気な女の子” たちを皮肉るような歌詞は実に痛快だった。

なによりも、KANさんの曲で目立つ楽器といえば、やはりピアノ。とくに『NO-NO-YESMAN』7曲目「BRACKET」はイントロと間奏のピアノがじつに小気味良く響く。

KANさんの曲は4歳年上で仲良しの男友達の車でも一緒によく聴いた。ある夜、彼が突然「北新地でお花屋さんが余らせてるのを全部もらったから持ってく」と、わたしが好きな黄色いフリージアの花を車のトランクいっぱいに詰めてきた。母と2人で「綺麗やけど、どないしよ?」と戸惑いながら大きな花瓶に生けた。それはそれはとてもいい香りだった。わたしは彼のことをとっても好きだったが、彼にとってわたしは妹のような存在で、恋愛としてはかなわなかった。車中で「今夜はかえさないよ」を聴きながら、今夜は帰すよ、と何度言われたことか。

恋バナから音楽に話を戻す。KANさんの作品はアルバムに限らず良い曲は多い。いくつか例を挙げると、アコースティックピアノで刻まれる和音が印象に残る「だいじょうぶ I’M ALL RIGHT」、イントロなしでいきなり歌メロに絡まるピアノの響きが印象的な「REGRETS」etc. 世が世なら “ピアノポップ” と括られたかもしれない。

1990年「愛は勝つ」でブレイク、高らかに響き渡る力強いピアノのイントロ


テレビ番組のタイアップもあり、1990年に「愛は勝つ」でKANさんはやっとブレイクした。当初「愛は勝つ」は、5枚目アルバム『野球選手が夢だった』に収録されたうちの一曲だったが、それまでのポップで凝ったチャラ目のKANさんの曲とは少し毛色が違った。アルバムのジャケット写真でグラウンドに立つKANさん本人のような、紺ブレに糊のきいた白シャツの青年を想い起こす、明るく端正でまじめな曲という印象だ。

高らかに響き渡る力強いピアノのイントロからはじまる「愛は勝つ」については、2020年2月発売の書籍『KAN in the BOOK 他力本願独立独歩33年の軌跡』(シンコーミュージック)に制作時のエピソードが掲載されている。

KANさんの先輩が恋愛で悩んでいて、励ますために「愛は勝ちますよ、ね!」と言ったところから詞が出来て、当時KANさん本人は「なんか漠然としちゃった」と思ったこの詞を、既に出来上がっていたビリー・ジョエルの「アップタウン・ガール」風のメロディに載せたものだという。

だからもともとは、その先輩への応援ではあったが、世に言われるような頑張れソングとして作ったものではなかった。ただ、結果論として「ちょっと漠然としていたことが解釈が広がってよかった」とKANさん本人はインタビューで語っている。シンプルでわかりやすいメロディもあり、その結果大ヒットした。

増えたストリートピアノ、鍵盤男子も増えてほしい


「愛は勝つ」のブレイク後、1992年リリースのベストアルバム『めずらしい人生』のタイトル曲で、KANさんはこう歌っている。

 めずらしい人生
 今うたをうたっている
 あれほど逃げ回っていた
 ピアノを弾きながら

最近は街角にストリートピアノが増えた。時々、ちっちゃい男の子が弾く姿に遭遇するとニコニコ、ハラハラしながら見てしまう。いずれ彼らもピアノから逃げ回り、「今夜はかえさないよ」と誰かに言う日が来るのだろうか。

ビートルズの来日公演から54年。他にも古今東西の音楽が、ラジオやレコードに加えネット経由で気軽にたくさん聴ける世の中になった。だから、小さい頃ピアノを習い、もしピアノから逃げ回ったとしても、いろんな音楽をたくさん聴いて血肉にして、もちろん恋愛もして、いつか鍵盤男子として活躍する子が増えてほしい。そういう鍵盤男子を見ながら、いつまでも美味しいお酒が飲めるおばあちゃんに、わたしはなりたい。


2020.04.07
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  Apple Music
 

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うり坊
僕が中学生時代、ピアノを弾いて歌う人はまだ少なく、それこそ日本では
原田真二か小田和正か財津和夫かっちゅうくらいでした。
大学まで軽音でキーボードやって歌ってましたが、
鍵盤男子はモテたろう?と周囲から言われた時に、僕が気付いた真理は
「鍵盤男子はもてる。ただしイケメンに限る」でした。原田真二はあの
カーリーヘアと童顔でめちゃくちゃ女子に人気があったけど、
じゃあミッキー吉野はどうかというと女子人気より男子人気だった。
エルトン・ジョンに憧れて原田真二はピアノロックを始めたと
確かインタビューで答えてたけど、エルトンより原田真二はとにかく
かっこよかったです。すぐ真似しましたね。なにもかも。

KANが登場したとき、そのステージでの扮装や立ち居振る舞いから
「ああこの人はエルトン系ね」と当時思いましたが、彼の紡ぎ出す
美しいメロディーと少しハスキーなハイトーンは十分イケメンでした。
2020/04/08 13:58
1
返信
カタリベ
1965年生まれ
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