少し前、テレビでフィギュアスケートを見ていて、トリノオリンピックで金メダリストとなった荒川静香選手を思い出した。
あのときのイナバウアー、美しかったなあ。もう10年以上も前のことで、細かいことは覚えていないが、あまりの美しさに客席でスタンディングオベーションが起こったことは記憶に残っている。
人は自分の予想を超えて感動すると、座ってなんかいられなくなるんだろう。与えてもらった感動への感謝を伝えようと、思わず立ち上がり拍手や歓声を送ってしまう。
36年前、小さなライブハウスで初めてスターダスト・レビューのア・カペラを聴いたとき、まさにぼくはそんな状態だった。最初から立って見ていたので、スタンディングオベーションといっていいのかどうかよくわかんないが、歌い終えた彼らに大きな拍手を送らずにいられなかった。5人の一声一声がそれぞれに役割を担い、影響を及ぼし合い、調和を取って、美しいひとつの像を描く。そもそも音楽とはそういうものだけど、5人の歌声だけで描かれる、想像以上の「像」の美しさに驚いてしまったのだ。
おかしな話だが、音が目に見えるようだった。5色の絵の具で写真のようにリアルな絵を描く、不思議なアートを見ているような気がした。
狭いスペースでエネルギーを持て余して歌い、演奏し、ときに宙返りさえしてみせる彼らの躍動的な音楽の楽しさとは別の、美しく温かい世界に、スッと潜り込んでいくようだった。
もし隣で同じ時間を共有しているなら、「これ、すごいよね!」だけでわかりあえることを、一緒にその時間を過ごせなかった人にはうまく言葉にして伝えることができず、いわゆる音楽雑誌の書き手として何年も悶絶していたが、86年12月に、スターダスト・レビューにとっての初のア・カペラ アルバム、『CHARMING』がリリースされて、その問題が少し解決した。
まあ、こんな言い方もなんだけど、なかなか言葉で伝えられずにいた彼らのア・カペラの魅力が、「聴けばわかる」アルバムとして登場したのだ(笑)。
この時期に、改めてこのアルバムを聴くと、3曲目に収録されているカバー曲「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」が、素晴らしいクリスマスソングとして響いてくる。もう友人とのパーティーや、ガールフレンドからのプレゼントにはしゃいだりするほど若くはないぼくにはぴったりの、いつもより少し華やかで、美しく温かい、そんなクリスマスの夜を思い浮かべることができる。
※2016年12月4日に掲載された記事をアップデート
2018.12.20
Apple Music
Information